出典:株式会社マイナビ HUMAN CAPITAL サポネット
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今年も、インターンシップアワードが開催されました。過去最多の応募法人数・プログラム数で競われた今回は、新型コロナウイルス感染症対策のためオンラインで表彰式が行われました。
受賞プログラムの紹介はもちろん、今後のインターンシップを考える示唆に富んだスピーチ、講演の内容もレポートします!
※本レポートは2021年5月18日(火)開催された「インターンシップカンファレンス」を基に構成しております
本記事はHUMAN CAPITAL サポネットより転載しております。
「学生が選ぶインターンシップアワード」とは?
学生の職業観の育成および社会的・職業的自立に貢献したインターンシッププログラムを表彰し、学生にとって良い効果をもたらすプログラムの傾向などを社会に伝えることで、インターンシッププログラムの質的向上および実施企業数の増加を実現し、学生と企業のより精度の高いマッチングの促進を目的とした取り組みです。
「学生が選ぶインターンシップアワード」では、インターンシップが学生にもたらす効果として次の5つを挙げています。
1 キャリアの焦点化
興味のある業界・企業・仕事内容のイメージが明確になり、やりたいことへの理解が進んだ
2 キャリアの展望化
これまで知らなかった業界・企業・仕事内容を知り、興味の範囲が広がった
3 人的ネットワークの認知
就職活動をうまく進めるために、周囲の人々との関係性をうまく構築していこうと考えるようになった
4 就労意欲
働くことに対する意欲が高まったり、社会人になる準備・覚悟ができた
5 自己理解
自分の強みや弱み・足りない能力を把握することができた
今年は421法人・523プログラムが参加
まずは主催者あいさつとして、株式会社マイナビよりインターンシップアワード実行委員会 委員長の林 俊夫が登壇。「第4回 学生が選ぶインターンシップアワード」の開催報告を行いました。
今回のアワードにおいては、応募法人数は421法人(うち大学が17法人)、523プログラムと過去最多を記録し、コロナ禍においても企業にとってインターンシップの重要性が引き続き高いことが見てとれます。
加えて、今年は応募プログラムの中で「オンライン開催」が半数を大きく超えたことも特徴です。
昨年度の大賞受賞企業、生和コーポレーションの横川翔氏のキーノートスピーチでも、オンライン化への対応の重要性が語られました。
キーノートスピーチ:オンラインでも相互コミュニケーションを大切に
昨年の「学生が選ぶインターンシップアワード」で、相互コミュニケーションを重視した手厚いフィードバックなど、徹底して学生に「成長環境」を提供したことが高く評価された生和コーポレーション。
前回の大賞受賞プログラムの振り返りとともに、「with コロナ」でもその価値を失わずに提供していることを強調しました。
ポイントは、企業サイドが学生同士が協働できるオンライン環境の提供と、個別の連絡手段を確保することによるフィードバック品質の維持。
加えて、感染防止対策を徹底した上で「選択制」とし、対面で参加できる仕組みを整えたことで、今年度も変わらずに学生から高い満足度評価を得たと言います。
しかし、無視できないのが人的コストの高さ。その点について同社人事部の横川さんは、より広い目でインターンシップの「効果」を測るべきと語りました。
それは、インターンシップを実施することによって得られる「社員の成長」。特にメンターとして個別フォローを担当する社員にとっては、日々の業務の中で忘れてしまいがちなビジネスの基礎、仕事への向き合い方を学び直す貴重な機会になるのだそうです。
学生の満足を第一にする一方で、社員の成長も見込んだ全体のメリットをきちんと評価すること。それによって、これからも多くの企業がより良いインターンシップを実施してほしい、とキーノートスピーチを結びました。
大賞と文部科学大臣賞の概要と講評
続いて、優秀賞を受賞された5プログラムの発表と各担当者からのプレゼンテーション、大賞と文部科学大臣賞の発表が行われました。
どれもそれぞれに素晴らしいプログラムでしたが、ここでは大賞と文部科学大臣賞を受賞されたプログラムをご紹介します。
他のプログラムもぜひ、こちらで内容をご覧ください!
【大賞】沖縄ワタベウェディング株式会社「Wedding Produce Program」
沖縄でのリゾートウェディングを軸に、ウェディング事業を展開する同社が実施したのは「Wedding Produce Program」。
同プログラムは4カ月にもわたる長期インターンシップ。その内容は、なんと学生に実際の結婚式をプロデュースしてもらうというもの。
キックオフミーティング、リーダー・サブリーダー研修を経て、お客さまの募集から打ち合わせ、衣裳やアテンドなど専門知識の研修、そして結婚式本番までを体験できる「超実践型インターンシップ」です。
新型コロナウイルスの流行によって一時は中断も検討されたものの、コロナ禍だからこそできる結婚式の新しい形を発信したい、学生の成長機会をなくしたくないという強い思いがあり、オンラインを活用しながら、インターンシップをやり遂げました。
<講評>
「評価ポイントは『顧客を巻き込む仕組みづくり』です。顧客を巻き込むことには困難もあったと思いますが、学生が募集から行うことで納得感を持って協力してもらえている点が素晴らしい。この仕組みづくりの巧みさによって、学生・企業・顧客にとって三方良しのインターンシップが実現しています」
(法政大学キャリアデザイン学部 梅崎修教授)
【文部科学大臣賞】鹿児島大学 課題解決型インターンシップ
<概要>
鹿児島大学のキャリア形成支援センターが実施したのは、地域密着型の「課題解決型インターンシップ」。
地元企業、地域経済団体、自治体の協力を得ながら、学生に地域の課題と向き合い解決する機会を提供することで「社会人基礎力」の底上げと、地域企業への貢献を同時にかなえています。
例えば、県内の大手畜産企業・株式会社ジャパンファームとの共同プログラムでは、畜産業界の若手不足という課題解決に学生が向き合い、問題点の洗い出しから解決策の提示、効果の実証までを行いました。
<講評>
「評価ポイントは『地域に根を張る』インターンシップであることです。地域の課題解決という大きなテーマを持つことによって、企業単体ではなく、地域経済全体を学ぶ貴重な機会を学生に提供している点が高い評価を得ました。また、学生と参加企業に配布されたガイドブックが充実しており、関係者が本気で取り組んでいることが伝わってきます」
(梅崎教授)
このほか、優秀賞にフェリス女学院大学、明治大学・関西大学(共同企画)、株式会社ロイヤルコーポレーションが選出されたほか、5つのプログラムが入賞を果たしました。
優秀賞を受賞した各プログラムの詳細は、ぜひこちらでご確認ください。
2020年のインターンシップは「対面が持つ価値の問い直し」
続いて、法政大学キャリアデザイン学部 梅崎 修教授による審査員講評です。今回のインターンシップアワードを通じて見えてきた課題、未来への展望をお話しいただきました。
「各社、各大学ともに『オンラインでのインターンシップは何をするべきか』ということに工夫を凝らされてきたと思います。それは裏を返せば『対面とは何だったのか?』とその価値を問い直す機会でもあったのではないでしょうか。
『対面からオンラインへ』という単純な構造ではなく、オンデマンドも含めたさまざまな方法が持つそれぞれの役割を見直し、再設計する1年間だったのだと思います」(梅崎教授)
と、コロナ禍で変革を求められたインターンシップのあり方を問い直す1年間であったと解説します。
では、肝心の学生からの評価はどうだったのでしょうか。学生の視点に立ったプログラムづくりの重要さ、難しさに触れながら、
「学生の目線は非常に厳しく、似たプログラムであっても評価には大きな差が付くこともありました。
単に『面白いから』だけでは評価されません。就職活動という限られた期間、自分自身の限られた時間を使って参加するならば、どのインターンシップにするべきか、とシビアな目線で評価しています。
そこには、就職活動を意識した学びへの貪欲な姿勢が表れていたのだと思います」(梅崎教授)
こうした状況においても、応募プログラムについては学生から評価を得たインターンシップが多く、各社、各大学ともに努力を重ねたことを高く評価し、次のようにまとめて今回のインターンシップアワードを総括しました。
「インターンシップ受け入れ人数の少なさ、リスク管理のしやすさといった点でコロナ禍においてアドバンテージを得たのか、小回りの効く中小企業の挑戦が目立った年となったことは大きな特徴でした。
また、ここ3年ほどの傾向として大学が主催するインターンシップが高評価を得ています。大学の場合、インターンシップ前後も学生のフォローができることが強みでしょう。
企業側にとっても、この傾向は大いに参考になるものと思います」(梅崎教授)
クロージングキーノート:インターンシップ成功のカギは、「前後」のコミュニケーションにあり
最後に、多摩大学 経営情報学部 初見康行准教授によるクロージングキーノート「インターンシップの内容・手法の改善に向けて」の内容をご紹介します。
今後もコロナ禍に配慮したインターンシップのあり方を模索し続けなくてはいけないという前提の下、同アワード応募企業のインターンシップに参加した学生5,230名へのアンケートを基に、より効果のあるインターンシップのあり方について示唆を与える内容です。
まず取り上げられたのが「教育効果」を高めるインターンシップづくりについてです。
学生の教育効果の高まりが企業にとって直接の利益につながるわけではありませんが、単に選考母集団の獲得だけでなく、学生の成長を支援する取り組みとしてインターンシップが受け入れられている現状を鑑みると、重要な視点と捉えるべきでしょう。
今回の分析では、上記の質問を「教育効果」と仮定した上で、その他の質問項目への回答がどのように影響を与えたのか分析しています。
具体的に用いられたのは、共分散構造分析(SEM)という分析手法。
インターンシップに関連する4つの要因(プログラムと大学の専門・専攻の関係、事前・事後学習の充実、就業体験の充実、社会人基礎力の向上)が相互にどのように影響を与え、教育効果につながっているかを上図に示しています。太い線が「影響大」、点線が「影響小」の関係です。
初見准教授はここから、インターンシップの教育効果を上げるポイントとして次の3つを挙げました。
- 大学での専門・専攻と関係性が深いこと
- 事前・事後学習が充実していること
- 社会人基礎力などスキル・能力の向上を知覚させること
特に「3」については、「多くの企業がインターンシップでなにを体験できるか、どのようなプログラムがあるか、という点は強くPRする一方、『インターンシップを通してどのようなスキル・能力が得られるか?』という点をあまりPRしていません。学生に向けて、得られるスキル・能力をより強くPRすることで参加の意欲を高められるのではないでしょうか」(多摩大学 経営情報学部 初見康行准教授)
と、企業側に工夫の余地があることが指摘されました。
また「2」の事前・事後学習とは、インターンシップ前の目標設定とインターンシップ後の評価・フィードバックを指します。インターンシップの教育効果を向上させたいと考える場合、『開始前にきちんと目標設定を行い、終了後は評価とフィードバックを手厚く行うこと』に力を傾けるべき、ということですね。
続いて、企業にとって直接的な利益となる「志望度を高めるインターンシップ」についての分析に移ります。
先ほどと同様にモデル図を基に、初見准教授はインターンシップにおける「志望度向上」のポイントとして以下の3つを挙げました。
- インターンシップの「満足感」を高めることが志望度向上の前提となる
- 事前・事後学習の充実が満足感にポジティブな影響を与える
- スキル・能力の向上感は「満足感」にも「志望度」にも直接ポジティブな影響を与える
この結果を初見准教授は以下のようにまとめました。
「学生の志望度を上げるためには、まずは学生がインターンシップに満足することが大前提です。その上で、『満足感』にポジティブな影響を与える要因に注目していただきたいと思います。
一つが『事前・事後学習の充実』です。教育効果の分析でもお伝えしたとおり、インターンシップ前後の目標設定、評価・フィードバックを指します。このインターンシップの前工程と後工程を丁寧に行うことが、結果として学生の満足感を向上させるとても大きな要因になっているんです。
また同時に、『スキル・能力の向上感』も重要です。注目すべきなのが『感』という文字で、実際にスキルや能力が上がったかどうかよりも、『学生自身がインターンシップを通して自分のスキル・能力が向上したと感じて(知覚して)いるか』が重要になります」(初見准教授)
意外なのは、「就業体験の充実」についてです。今回の分析結果からは、就業体験の充実(より実務に近い体験)はインターンシップの満足感にそれほど大きな影響を与えていない、という意外な結果となっています。
初見准教授はその背景として、「実務を体験して仕事の面白さを感じる学生も多数いますが、一方で、実務体験が幻滅体験となり、早期の『リアリティショック』を引き起こしてしまっている可能性がある」と述べています。
「ただし、だからといって就業体験をしない方がいいかと問われれば、それは違うでしょう。より大きな視野に立てば、リアリティショックを早期に体験することによって、改めて自分の将来や職業選択に向き合い、自分に合った進路を発見する手助けをしているとも見ることができます」(初見准教授)
言い換えれば、インターンシップを通した「リアリティショックの前倒し」も学生と企業の真のマッチングという視点では一つの重要な体験と考えるべきなのかもしれません。
満足度の高いインターンシップは、オンラインか? 対面か?
クロージングキーノートでは最後に、インターンシップがオンラインか対面かで、学生の満足度にどのような影響を与えたのかという分析結果が示されました。
つまり、インターンシップをオンラインもしくは対面で行うかという「手段」は、インターンシップの満足感とはほとんど関係がないということです。それよりも、プログラムの「内容」に対する満足感を担保することの方がずっと重要であることが分かりました。
初見准教授はこれを「意外な結果」と受け止めながらも、次のようにまとめます。
「私も分析前は、インターンシップは対面の方が満足度が高いだろうと考えていましたが、今回の結果からは『オンラインのインターンシップを避けた方がいい」という積極的な証拠は見つかりませんでした。この結果を前向きに捉えれば、オンラインインターンシップには対面のインターンシップを一部代替するようなポテンシャルがあると解釈することもできるかもしれません。
ただし、オンラインと対面のインターンシップの両方に参加した学生のうち、64%が対面のインターンシップを支持していることから、学生も実感として対面の価値を感じていることも事実だと思います。
また、『オンラインインターンシップ元年』だった昨年は、急いでインターンシップをオンライン化した企業も多く、対面・オンラインそれぞれの強みを生かした企画がそもそも実施しにくかったという可能性もあります。ここから1〜2年は、オンライン・対面のベストミックスを模索する期間になるでしょう」
と結び、「ぜひ、インターンシップアワードからフラッグシップとなるプログラムを紹介したい」と呼び掛けて、第4回インターンシップアワードは幕を下ろしました。
インターンシップの事前・事後を大切に、オンライン・対面のベストミックスを
今回のインターンシップアワードで受賞した企業のプログラム、そして審査講評やクロージングキーノートで話された内容を総合すると、「オンラインと対面、それぞれの価値を見直すこと」と「インターンシップ前後のフォローを徹底して手厚くすること」、さらに「スキル・能力の向上を感じさせてあげること」が学生にとって満足度が高く、企業にとっても効果の高いインターンシップにつながることは、間違いないようです。
インターンシップについて企業が考えるとき、ついつい「現場」のリアリティをいかに体験してもらうか、という点にばかり目が向いてしまいますが、本アワードを通じて得られた示唆から、さらに素晴らしいプログラムが生まれることを願っています。