第5回インターンシップアワードより、「地方創生賞」が新設されました。平成28年に設置された内閣府地方創生推進室が支援するインターンシップに関して、立ち上げからの経緯や現状、これからめざすあり方について内閣府地方創生推進室の坂本氏にお話を伺いました。
内閣府地方創生推進室
参事官補佐
坂本 卓司(サカモト タクジ)
―― まずは内閣府においてインターンシップ普及活動が開始された経緯および取組の概要について教えてください。
東京一極集中の是正に向けて、政府に「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(平成26年)」と「内閣府地方創生推進事務局(平成28年)」が設置されました。そこで、就職時に若者が地方から首都圏に流出していくという課題を解決するため、地元企業へのインターンシップ参加を通じて地域で働くことの魅力を知ってもらい、地域に定着する流れを促進することが重要であるという議論が起こりました。
一方、インターンシップの推進には課題もありました。特に地方の中小企業においては、マンパワーやノウハウの不足により、都市部の大企業と比べ、インターンシップに簡単には踏み込みづらい現状があります。そこで地方公共団体が旗振り役となり、地元企業や大学を巻き込みながら、産学官が連携して地域を挙げて実施するあり方に注目したのです。一社だけでは実現できないインターンシップも地域一丸となって行えば実現しやすい。この一連の取組を「地方創生インターンシップ」と称し、推進していくことにしました。
―― 全国の地方自治体に対して、どのように「地方創生インターンシップ」を浸透させたのでしょうか。
平成28年に有識者会議を設置し議論を開始したことを皮切りに、日本各地でのシンポジウム開催や、情報発信ポータルサイトの構築、事例集やヒント集の作成、参加型の研修会の開催など、様々な方法で地方公共団体へのノウハウの提供を行ってまいりました。令和3年度からは地方公共団体の悩みに答える個別相談会も実施しています。これから初めの一歩を踏み出そうとしている団体から、すでに実施しているインターンシップのさらなる質向上を目指す団体まで、さまざまなステップに応じた支援を行っています。
―― 第5回インターンシップアワードより「地方創生賞」が新設されましたが、受賞された「しがプロインターン」について教えてください。
「しがプロインターン」は、地方創生インターンシップの中でも非常に注目すべきプログラムです。本事例のユニークなところは、学生募集の際に企業名をあえて出さず「事業開発」「社会貢献」などのテーマ別で広報している点です。学生が選んだテーマに応じて地元企業とマッチングする「ランダムマッチング」という手法を導入しています。
学生がウェブの情報だけでインターンシップ先を選ぶのは容易ではありません。インターンシップにおいて重要なのは、就業体験を通じて「働くイメージ」を持ってもらうことですから、入口の敷居はもっと低くても良いはずです。本事例はランダム性をうまく取り入れ参加ハードルを下げることに成功し、県内外から多くの学生を集めています。
さらに、運営主体である滋賀県と株式会社いろあわせが協力して地元企業へのプログラム設計支援を行い、質の担保も図っています。学生が一歩踏み出しさえすれば、地元企業での実践的なインターンシップに参加できる。動機は小さくても参加すれば得るものが大きい、自治体と企業が一体となって進める「理想的な形」の一つであると考えています。
―― 今回の受賞団体以外に、成功事例があればご紹介いただけますでしょうか。
一つ上げるならば、新潟県燕市の取組です。同市が委託する公益社団法人つばめいとが県内外の大学と地元企業をマッチングし、毎年200名以上の学生が地元企業のインターンシップに参加しています。
注目したいのはプログラム。燕市は金物の製造業が盛んな地域ですが、つばめいとが企業とともに地域特性を活かした内容を構築しています。産業特性についての理解を促すため、スプーン製造に係るサプライチェーンの川上(製造)から川下(小売)まで、複数の企業を数日間かけて渡り歩くプログラムや、学生が企業で商品開発のアイデアを提案し、実際に販売に結びつけるようなプログラムもあります。
その土地の特性を広く深く理解できるだけでなく、受け入れ企業にとっても若者の斬新なアイデアが入ることで、新たな事業展開に結び付くきっかけになっています。単なる人材確保や企業PRにとどまらず、「インターンシップの取組が地域活性化に繋がる多面的な意義がある」ということを教えてくれています。
―― 第5回カンファレンスで多摩大学の初見准教授もお話していたとおり、企業側も得るものが大きい姿が理想的ですね。では、現在の課題と今後の方向性について教えていただけますでしょうか。
内閣府が実施している地方創生インターンシップの研修会へも、毎年300名以上の地方団体の方に参加いただいており、徐々に広がりを見せていると実感しています。一方でコロナ禍の影響により、従来の対面型インターンシップの実施が難しい状況が続いており、地方公共団体や企業の皆さまも非常に苦慮されていらっしゃるようです。
そこで内閣府としては、コロナの時代に対応する手法として、オンライン開催のインターンシップの優良事例を研修会で紹介するなど、直近の課題に対応したノウハウ提供に力を入れています。また、私たちが実施する研修会そのものの形を見直し、いつでもどこでも学んでいただけるよう、オンデマンド形式の研修動画コンテンツの発信も準備しています。
研修を受講された地方公共団体がインターンシップを開始される例も徐々に生まれてきておりますが、立ち上げの段階では様々な課題が生じることもあるため、最初の一歩を踏み出されたばかりの地方公共団体に対する個別相談会も引き続き開催する予定です。
新たな取組や個別のこまやかなサポートを通じ、各地域におけるインターンシップへの取組がより一層広がるよう支援を進めていきたいですね。
―― 地方企業や団体へお伝えしたいことがあれば、ぜひお願いします。
インターンシップはこの数年間で企業・大学・学生に根強く定着しつつあり、学生の職業選択に大きな影響を与えています。実際に参加した企業の採用選考を受けたと回答した学生が約9 割という調査(マイナビ 2022 年卒内定者意識調査)もあります。インターンシップは、地域内外の学生が地元企業を知り、就職に繋げることで若者の地域への定着を促進することはもちろん、学生がその地域で働くことや、暮らすことの魅力を体験することにより、「関係人口」として、継続してその地域への関わりを持ち続ける流れを生む大きなポテンシャルも有していると考えています。
コロナ禍によるライフスタイルや価値観の変化もあり、学生のUターン就職が高まりを見せつつある今、地方に追い風が吹いているとも考えています。内閣府としても、地方公共団体の皆さまのチャレンジを精一杯ご支援いたしますので、ぜひこの好機に地域一丸となってインターンシップを実施いただきたいですし、お気軽にご相談をいただければ幸いです。
―― 最後にインターンシップアワードへ期待することを教えてください。
これまでに受賞された企業・団体のプログラムを拝見しますと、いずれも工夫とご尽力、そして学生の声によって、インターンシップの可能性そのものを広げるような優れた取組ばかりで感服しています。受賞企業・団体の皆さまがフロントランナーとして我が国のインターンシップをリードしてくださっていることは、とても有意義なことであると考えています。
そして第5回からの「地方創生賞」の創設により、地方公共団体と関係団体が実施するインターンシップにもスポットライトを当てていただけることになりました。全国には「地域ならでは」の魅力的なプログラムが数多くあります。これらの取組をより多くの方に知っていただき、学生が「地方でインターンシップに参加したい!」と思ってくれることや、地域の皆さまにとっても「自分の地域でもインターンシップをやってみたい!」と一歩を踏み出すきっかけとなることを大いに期待しています。
(参考資料・サイト)
内閣府 地方創生インターンシップポータルサイト
https://www.chisou.go.jp/sousei/internship/index.html
※研修会・個別相談会の情報や、地方でインターンシップを実施する際にヒントとなるノウハウ・事例を発信しています。ぜひご参照ください。
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