学生のインターンシップ参加率は過去最高の85.7%!
低学年の学生たちの注目も集め、参加者は多様化
カンファレンスの最後を締めくくったのは、長年インターンシップに関する研究に携わってきた実践女子大学 人間社会学部 初見康行准教授。「キャリア形成活動の発展に向けて」というテーマで、キーノートスピーチを行った。
「会場にいらっしゃる方々やご視聴されている皆さまの多大な尽力のおかげで、インターンシップに代表されるキャリア形成活動は、大学生活に欠かせない取り組みへと発展しました。近年の傾向として特徴的なのは、大学1~2年生の参加率が上昇していること。特にコロナ禍が過ぎてから、インターンシップに参加したことがある低学年の学生が増えています」
「マイナビ 2025年卒 大学生応報活動開始前の活動調査」によると、学生のインターンシップ参加率は85.7%と過去最高を記録した。さらに、低学年化などによって参加者が多様化していくなか、インターンシップを含めたキャリア形成活動をより充実させていくためには、どうすればいいのだろう。
「今回の講演では、2つのテーマについてお話させていただきたいと思っています。1つ目が、主に企業さま向けの内容になるのですが、『効果的なプログラム(就業体験)のポイント』についてです。2つ目が、主に大学関係者さま向けになるかもしれませんが、『低学年からキャリア形成活動を開始することの意義』。マイナビさまと共同で実施した調査の結果をベースに、より有益なキャリア形成支援について、皆さまと一緒に考えていきたいと思います」
プログラム全体の50%以上を就業体験にすることが重要
5日間以上のプログラムは学生にも企業にも有益
『効果的なプログラム(就業体験)のポイント』を導き出すために、初見准教授はまずプログラム全体における就業体験の割合と、プログラムを通した仕事・社風の理解度の関係性について分析を実施。すると、就業体験の割合が高ければ高いほど、仕事・社風の理解度が右肩上がりにアップするという結果が出たという。
「さらに一歩踏み込み、統計的に仕事・社風の理解度に差が出る分岐点を分析。その結果、就業体験の割合が全体の50%以上を超えると、仕事・社風に対する理解度が急速に上昇していくことが判明しました。つまり、プログラムにおける就業体験の割合を50%以上にすることが大事だと言えるでしょう。もちろん、就業体験の効果をより高めるためには、丁寧な事前学習と事後学習が必要なことは言うまでもありません」
【「就業体験の割合」と「仕事・社風の理解度」の関係】
「インターンシップなどのキャリア形成支援プログラムを実施することで、学生に自社を志望してもらいたい」と、考えている企業が多いはず。そこで、初見准教授は調査データをもとに学生たちの志望意欲を高めるポイントを探ってみたという。
「就業体験による仕事・社風の理解促進より、社会人基礎力に代表される『能力の向上感』のほうが、学生たちが適職を見つけるうえでプラスの影響を与えていることが判明しました。つまり、プログラム参加後に『自分の能力が向上した』と実感できるかどうかが、「適職の発見感」や「志望度の向上」を左右しているのです。自社の仕事内容や社風を理解してもらうことを目的に就業体験を実施している企業さまが多いと思うのですが、今後はそれに加えて『能力の向上感』を意識したプログラムを構築することが重要だと言えるでしょう」
では、学生の『能力の向上感』を高めるためには、どういったことが必要なのだろう。初見准教授は、3つのキーワードをピックアップしてくれた。
「“専属の担当による個別指導”“社員との交流・同行・座談会”“産学連携型プロジェクトによる実施”が、学生たちの『能力の向上感』に関連していることがわかりました」
さらに、初見准教授によると内々定・入社承諾にまでつなげるためには、プログラムの期間が重要だということがわかったそう。
「5日未満と5日間以上のプログラムにわけて、それぞれ学生の選考参加・内々定・入社承諾の関係性を調査しました。すると、選考参加率はさほど変わらなかったのですが、5日間以上のプログラムに参加した学生のほうが内々定率が約30%、入社承諾率が約20%高いという結果が出たのです。つまり、5日間以上のプログラムは学生と企業の双方にとって有益だと言えるでしょう」
【『効果的なプログラム(就業体験)のポイント』まとめ】
◆就業体験の前後に「事前学習」と「事後学習」を実施する
◆5日間以上かつプログラム全体の50%以上を就業体験にする
◆仕事・社風の理解に加えて就業体験を通した「能力開発」を意識する
低学年を対象としたキャリア形成支援は企業側にも大きなメリットがある
コロナ禍を経て、大学1~2年生のインターンシップ参加率が上昇傾向にあるとはいえ、26・27年卒予定の学生でインターンシップに参加したことがある大学1~2年生は26.3%(「マイナビ大学生低学年のキャリア意識調査(26・27年卒対象)」)。キャリア形成活動を行う学生は、まだまだ3年生以降に偏っているという現状がある。そんななか、2つ目のテーマである『低学年からキャリア形成活動を開始することの意義』を検証するために、 初見准教授は独自の調査・分析を実施した。
「『低学年からのキャリア形成活動は本当に有意義なの?』と思われる方も多いでしょう。そこで、1年生のときにキャリア教育を受けた学生、受けていない学生、2年生のときに企業セミナーを受けた学生、受けていない学生など、さまざまキャリア形成活動のパターンにわけて調査を実施。すると、キャリア形成活動による学習意欲の向上や就職活動の満足・納得感、大学生活の満足・納得感は、低学年のうちからキャリア形成活動を進めてきた学生のほうが高いという結果が得られました」
【学習意欲・就職活動・大学生活の満足・納得感が高まるルート・組み合わせ】
さらに、初見准教授は追加分析を実施。1年生のときにキャリア形成活動やっておらず、3年生になって初めてキャリア教育を受け、企業セミナーに参加し、就業体験を行った学生グループと、1年生のときから段階的にキャリア形成活動をスタートさせた学生グループとにわけて、キャリア形成活動による学習意欲の向上や就職活動の満足・納得感、大学生活の満足・納得感の違いを調べてみたという。
「すると、1年生のときからキャリア形成活動を始めた経験が、その後に大きな影響を与えていることが判明。なかでも、在学中の学習意欲の向上に大きく役立っていることがわかりました。ちなみに、1年生のときから開始したほうが、仕事に対する「エンゲージメント」、「在職意思」、「社会人生活の満足・納得感」も高いという結果も出ています。低学年に向けてキャリア形成支援を行うことは、中長期的に見ると企業側にも大きなメリットをもたらすと言えるでしょう」
【キャリア形成活動の開始時期による比較】
【『低学年からキャリア形成活動を開始することの意義』まとめ】
◆キャリア形成活動を学年ごとに分散・ステップ化することは有効な可能性が高い
◆低学年からキャリア形成活動を開始することで「学習意欲の向上」がより高まる傾向にある
◆低学年対象のキャリア形成支援をしていくことは中長期的に企業にとってもメリットが期待できる
産学官民がしっかり連携することで
無理なく低学年向けのキャリア形成支援を実現できる
低学年のうちから学生のキャリア形成活動を支援し、キャリア形成プログラムを実施するとなると、大学側や企業側の負担が大きくなる。だからこそ、初見准教授は「産学官民の連携が不可欠になってくる」と力説する。
「学年をまたいで連続したプログラムを構築するのは、非常に難しいでしょう。しかも、前例が少ないのでトライアル&エラーを繰り返しながら、自分たちでゼロからイチを生み出していかなければいけません。そんな状況下で、数々の受賞プログラムの舞台裏を知れる『キャリアデザインプログラムアワード』は重要な役割を果たしていると感じています」
コロナ禍を経て、今年の「キャリアデザインカンファレンス」は数年ぶりにリアルでの開催となった。選考に参加した学生たちのパネルディスカッションや、参加者同士の交流会などを通して、キャリアデザインプログラムについての知見を深めていけるのが大きな特徴だ。
「今回受賞された法人の方々と一緒に、キャリアデザインプログラム全体の底上げを図っていくことが、『キャリアデザインプログラムアワード』の真の価値であると考えています。ぜひ来年もご応募いただき、カンファレンスの会場で貴重な知見を共有し合いながら、学生のキャリア形成支援を盛り立てていきましょう」