インターンシップ参加率の高まりと
「働く目的の重層化」の重要性
カンファレンスの締めくくりを飾ったのは、長年インターンシップの研究に取り組んできた実践女子大学 人間社会学部の初見康行准教授だ。「低学年からの『働く意味』の形成」をテーマに、今後のキャリア形成プログラムに示唆を与えるキーノートスピーチを行った。
「まず、インターンシップなどのキャリア形成プログラムの参加率は、85%以上の高い水準をキープしています。また、近年注目されている低学年向けのキャリア形成活動についても、大学1~2年生の参加率は33%という結果でした。さらに、参加率が増加傾向にあることも確認されています」
こうした現状を踏まえ、初見准教授は「より効果的なキャリア形成プログラムを実現するには何が必要か」という視点で講演をスタート。その中で、昨年度に共有した「働く目的の重層化」の重要性についても、改めて振り返った。
「昨年のまとめでは、働く目的が『お金を得ることのみ』の人は社会に一定数存在し、その人たちはワーク・エンゲージメントが相対的に低い傾向にあることをお伝えしました。一方で、『お金を得ること』を目的に含んでいても、それ以外の働く目的を複数持つ場合には、エンゲージメントが高まる傾向が見られます。だからこそ、キャリア形成プログラムを通じて、学生の働く目的を重層化していくことが重要であるというのが、前回の結論でした」


「なぜ働くのか」を考える機会を設けることが
学生にとっても、企業や社会にとっても重要
初見准教授は、今年も昨年と同様に、「働く目的の数とワーク・エンゲージメントの関係」に関する調査を実施。その結果、新たに明らかになった点が2つあるという。まず1つ目は、働くことに意味づけができている人ほど、卒業後に活躍する傾向が強いという点だ。
「意味づけが高い人は、職務満足やワーク・エンゲージメント、ウェルビーイングが高く、離職意思は低いという結果でした。つまり、働くことに意味を見出す力は、卒業後の活躍や充実感に大きく影響すると言えます」
2つ目は、「働くことの意味づけ」には一定の傾向があるということだ。意味づけが弱い人は「経済的安定のみ」を目的にしがちで、目的の数も少ない。一方、意味づけが強い人は目的が多様で、「社会貢献」「能力発揮」「生きがい」など上位の目的を持つ傾向が明らかになったという。
「意味づけが弱い人ほど、『経済的な安定のみ』を働く目的として選ぶ傾向があり、目的の数自体も少なくなります。一方で、意味づけが強い人は、働く目的の数が多く、その内容も多様です。重要なのは、『お金を得る』という目的自体には大きな差がないという点。経済的な目的は、誰にとっても共通のベースと言えます。違いが出るのは、その“上位の目的”。具体的には、『社会や人の役に立つ』『能力を発揮する』『生きがいを見つける』といった目的を持つかどうかが分岐点になります」
働くうえで「お金を得ること」は誰にとっても共通の土台となる。一方で、その先にどのような意味や目的を持てるかが、卒業後の活躍や充実感を左右していく。初見准教授の調査から見えてきたのは、働く目的が「生きがい」「能力発揮」「社会貢献」などへと“重層化”されるほど、仕事への満足感やエンゲージメントが高まりやすいという傾向だ。
「ですから、キャリア形成プログラムの中で『なぜ働くのか』を考える機会を設けることが大切です。また、先輩社員や社会人が自身の働く目的を語る場は、学生にとって大きな気づきになります。多様な価値観に触れることで、自分自身の働く目的を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。大学在学中にそのような思考力を育むことは、本人だけでなく、企業や社会にとっても重要だと考えます」


大学での学びとプログラム内容の連動が
低学年からのキャリア形成活動の成果を高める
これまでの調査から、働くことを意味づける力の重要性は明らかになった。では、それをいつ、どのように形成すべきなのか。初見准教授は、その問いに対するヒントとして、「いつ形成するべきか」に関する調査結果を紹介した。
「結論として、3年生以降ではなく、低学年から取り組むほうが成果につながりやすいことが明らかになりました。また、『社会や人の役に立つ』『能力を発揮する』『生きがいを見つける』といった目的についても、低学年から参加した学生のほうが高い傾向が見られます。働く意味や目的は、一朝一夕で形成されるものではありません。そのため、低学年の段階から中長期的な視点で働く意味や目的を形成していくことが重要だと考えられます」
では、実際にどのようなキャリア形成プログラムが有効なのか。初見准教授は、調査から見えてきた「働くことを意味づける力」を育むポイントを、「事前」「中身」「事後」の3段階で解説。まず、事前段階で重要なのは、「参加目的の確認」と「個人目標の設定」だという。
「なぜこのプログラムに参加するのかを、学生自身が明確に認識することが大切です。加えて、『自分は何を得たいのか』という個人目標まで設定することで、効果が高まる傾向も確認されています」
続いて、プログラムの中身については、「能力開発」「課題解決型ワーク」「実務体験」の3つが特に効果的だとした。こうした経験を通じて、「働く意味を見出す力」の形成につながることが分かったという。さらに初見准教授は、事後のフィードバックにも重要な特徴があると指摘した。
「興味深かったのは、『弱み』ではなく『強み』へのフィードバックが有効だったことです。『ここを改善した方がいい』という指摘以上に、『あなたの強みはここだから、さらに伸ばしていこう』という言葉のほうが、『働くことを意味づける力』に好影響を与えていたのです。また、『今後の大学生活で何を学ぶべきか』というフィードバックも効果的だということが判明しました」
初見准教授は、大学での学びとプログラム内容が連動していることも、低学年からのキャリア形成活動の成果を高める重要な要因だと指摘した。たとえば、大学でマーケティングを学ぶ学生であれば、マーケティングに関連した課題解決型プログラムを経験するほうが、高い効果につながるという。企業側が学生の学びを理解し、それに即した内容を設計することが、プログラムの価値を高める鍵になるという考えを示した。

低学年向けのプログラムこそ
産学連携の相乗効果が最も大きい領域
一方で、低学年向けのプログラムの拡充には、企業・大学双方に課題もあるという。企業側には、低学年学生の集客や人的リソースの確保に加え、採用成果につながるのかという不安がある。大学側も、何が効果的なのかを模索している段階にあり、マンパワー不足や実務体験を単独で提供しにくいという課題を抱えている。こうした状況を踏まえ、初見准教授が提案するのが、企業と大学による連携強化だ。
「低学年向けプログラムこそ、産学連携の相乗効果が最も大きい領域だと考えています。大学は学生との接点を持ち、企業は実務体験の設計に強みがある。双方の得意分野を組み合わせることで、多くの課題を解決できるはずです。ただし、最初から大規模な産学連携を目指す必要はありません。産学連携というと大きな取り組みを想像しがちですが、まずは1コマの授業からで十分です。企業の方にゲスト講師として来ていただくだけでも、学生にとって大きな刺激になるでしょう。スモールスタートで始めながら、段階的に取り組みの幅を広げていけばいいと思います」






