キャリア形成プログラムが低学年次の学習意欲の向上や
職業選択の一貫性を引き上げている
「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」において、実践女子大学人間社会学部准教授、初見康行氏は、「キャリア形成の発展プロセスと入社後の活躍に向けて」というテーマで講演を行った。
昨年度の講演では、1〜2年生からキャリア形成プログラムを始めた場合、3〜4年生から始めるよりも学習意欲が向上していることが提言された。今年度は学習意欲の向上が一過性のものか、あるいは中長期的な影響を及ぼすものなのか分析を行った。その結果、9ヶ月後の追跡調査により学習意欲の向上がその後の学習態度の改善に繋がることが新たに確認された。
初見氏は「大学の学習態度が向上することにより、大学で学んでいることをより活かせる職業選択をする傾向が高まる」と語った。
また、大学の学習と職業選択の一貫性が高い学生は、入社後の企業に対する満足感や就職活動の満足感が高いことも明らかになった。つまり、大学での学習内容と仕事内容がしっかり結びついていれば、社会人として早期から活躍するための準備もより整いやすくなる、ということになる。
加えて、低学年次からキャリア形成活動に参加することで、学習意欲・態度の変容が履修選択や学科選択、ゼミ選択に影響し、職業選択行動の変容に繋がり、最終的に各種の満足感や働く意欲の向上に繋がっていくため、このプロセスは低学年から開始した方が学生生活全体への波及効果が大きいということも示唆された。
入社後の活躍には「働く目的」の形成が鍵になる
卒業後の活躍に向けて、在学中のキャリア形成活動で行っていくべきこととして「学生の“働く目的”の形成を企業と大学が支援することが非常に重要なポイントである」と語る。
生きがいを見つける、社会や人の役に立つなどの働く目的の数と仕事に対する熱意・活力・没頭を表す指標であるワーク・エンゲージメント向上に相関関係が見受けられ、働く目的の数が1〜2個の社会人と3〜5個の社会人とでは、ワーク・エンゲージメントに明らかな有意差があった。
また、もうひとつのポイントとして、働く目的の中に「お金を得る」が強く入っているかどうかという点も重要だと語る。調査の結果、働く目的として最も多いのは「お金を得る」のみを選択している人であったが、働く目的が「お金を得る」のみの人はワーク・エンゲージメントが最も低い結果となった。
しかし、たとえ「お金を得る」を選んだとしても、働く目的が多様であるほどワーク・エンゲージメントが高まることが判明している。
働く目的の重層化を支援していくことで
キャリア形成プログラムのさらなる発展を目指す
これまでの統計結果を踏まえて、初見氏はキャリア形成プログラムを通して学生の「働く目的の重層化」を目指すことを今後の活動における指針として提案する。「働く目的の重層化」の有用性を説くために、初見氏はハンバーガーを例えとして用い、以下のように説明している。
「働く目的がお金を得るだけの人っていうのは、バンズのみのハンバーガーみたいな感じです。ただし、ハンバーガーっていうものが成立するためには、このバンズのパンの部分っていうのは必要不可欠だと思います。今回私から提案させていただいていることとしては、家族のためや社会の役に立つ、能力を発揮するなど、色々な目的があると思うのですが、こうした多様な働く目的をパティやレタス、トマトのようにトッピングしてあげるということですね。
皆さんのキャリア形成プログラムを通して、学生が多様な働く目的を見つけて、意味付けていくということを企業大学がサポートしていくということが、非常に重要だと考えております。」
では、働く目的を重層化するためには、具体的にどのような方策が必要なのか。初見氏は、働く目的の重層化を進めるためには、コーチングが有効だと指摘する。
コーチングとは、対話を通して対象者が自ら考え・行動していくことをサポートする技法のことを指す。働く目的には、万人に共通の部分と人によって異なる部分があり、人によって正解が異なるため、特定の目的を強要するのではなく各人に合った目的を対話によって引き出すことが重要だ。
また働く目的の重層化を誰が行うのかについても次のように語られた。
「若手リーダー層に任せてみるのはいいことではないでしょうか。キャリア形成プログラムを職業選択のために行うのは第一義なのですが、せっかくやるのであれば、自社の若手リーダー層の育成に活かしていくという考え方も重要なのではないかなと思います。」
今後は低学年次のうちにキャリア形成プログラムを通じて学生の働く目的を多様化し、コーチングによって企業と大学が協力してその重層化を支援することが就職活動においてポイントになってくる。より多くの学生が学習意欲をもって学問に励み、学習内容に基づいた職業選択を行うようになれば、企業と学生の双方にとって満足度の高い採用・就職活動になるはずだ。