大学主催のプログラムが学生から高評価を獲得
地方創生につながるプログラムも着実に進化中
受賞法人のプログラム紹介、文部科学大臣賞・大賞の発表、表彰式に続き、本アワードの選考委員を務める法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授による講評が行われた。今回のアワードの傾向や特徴について、次のように振り返る。
「ここ数年の傾向でもありますが、今回も大学主催のプログラムに対して高評価が集まりました。といっても、キャリアデザインプログラムは大学のみで実施することはできないので、産学連携によるプログラムの手厚さがポイントだと感じています。具体的には、期間の長さ、授業との連携、報告会やフィードバックなどを通した重層的な学びの実現が、学生からの支持を集める要因になっていると言えるでしょう。充実したプログラムを実現していくうえで、大学の教員や専門職の方々の活躍も大きいと思います」
梅崎教授によると、企業独自のキャリアデザインプログラムにも、魅力的なものがたくさんあったという。例えば、さまざまな大学や地域の学生を受け入れ、多様な学生による学びの相乗効果を生み出しているプログラムの評価が高かった。
「前回から地方創生賞という新たな賞が誕生しましたが、複数の企業を巻き込んで実施する地域プログラムも着実に育ってきている印象を受けました。一つの会社だけでなく、地域経済圏全体を複合的に学べるというのは、学生にとって大きな魅力だと言えるでしょう」
キャリアデザインのプロが受賞プログラムを講評
ブラッシュアップの参考になるキーワードとは…
全体の講評の次に、梅崎教授は受賞法人のプログラムそれぞれの魅力を、キーワードを沿えながら解説していった。キャリアデザインプログラムをブラッシュアップしていくうえで、おおいに参考になるだろう。
「大賞に輝いた麦の穂・椙山女学園大学のキーワードは『コーオプ教育の強み』。学内の授業と就労体験を組み合わせた産学連携プログラムで、企業と大学の強固な連携が大きな特徴になっていると感じました。それだけでなく、事業全体を理解できるプログラム構成も魅力。社内のあらゆる部門から協力を得るのは並大抵のことではないと思うのですが、協力社員の多さが生み出したプログラムの密度の濃さも注目すべき点です」
文部科学大臣賞を受賞した北九州市立大学のプログラムで、特筆すべきは『二つの言語化』。学生が自分の体験を言語化するだけでなく、教員側もインターンシップについて言語化してメッセージとして届ける姿勢が、素晴らしかったという。
「一方的に学生に言語化を促すだけでなく、教員自らも言語化しながら両者が結びついて相互に発展していく、という仕組みができあがっている点が見事でした」
梅崎教授が『産業集積地はキャリア教育の集積地』というキーワードを掲げたのは、地方創生賞を獲得した燕市のプログラム。企業と産業、地域が一体となり、地域経済圏という大きなフィールドで多くの学びを得られる、独自性の強さに注目した。
「企業と産業、地域の関係性を学べる場になっているところが魅力だと感じました。また、複数大学の学生が集まることで、多様な学生同士による学びの相乗効果が生まれている点もポイント。さらに、学生と企業、地域をつなげる公益社団法人つばめいとの存在も大きかったでしょう」
社内に学生広報室を立ち上げた、島根電工のキーワードは『媒介者効果』。就業体験(直接体験)よりも間接体験のほうが、想像力によって企業理解が深まるという可能性を感じたという。
「それだけでなく、SNSによる情報発信によって体験を言語化でき、学生が内省を深めていける点も特徴だと言えます」
長年培った伝統あるプログラムを構築している、テンプル大学ジャパンキャンパス。梅崎教授によると、その魅力は『主体性を生み出す集団文化』に集約されるのだとか。
「まず、さまざまな企業・団体と学生をマッチングする、プラットフォームづくりに長けているという印象を受けました。しかも、大学側が一方的に環境を与えるのではなく、学生が自らアクションを起こす必要がある。主体性を育む仕組みができあがっているところが、大きなポイントです」
キャリアデザインプログラムの未来に向け
本アワードが担当者たちの交流の架け橋に
選考委員の一人として、これまで数多くのプログラムを見てきた梅崎教授によると、学生から高い評価を得ているキャリアデザインプログラムに共通しているのは、実施する側の専門スキルの高さにあるという。
「1に人材、2に人材と言っても、と言っていいほど“人”が重要です。では、キャリアデザインプログラムの専門人材とはどういった人物なのか。複合的なスキルが求められるので一概には言えませんが、ビジネスの現場やキャリア教育に詳しく、交渉力や編集スキルがあり、分析能力にも長けている人材だと考えています」
そういった専門人材が増えることが、キャリアデザインプログラム全体のボトムアップにつながっていくのだとか。では、学生のキャリアデザインに関する幅広い知識やスキルを有した人材を、どうやって育成していけばいいのだろう。
「研究者なら、情報交換や交流ができる学会という場があります。それと同じように、自治体や企業、大学をはじめ、キャリアデザインプログラムに関わる方々が、コミュニケーションを図れる仕組みづくりが必要。同じ志を持つ仲間たちとの交流を通し、切磋琢磨することで、専門スキルを磨いていけるでしょう。本アワードがキャリアデザインプログラムの担当者同士をつなぐ架け橋となり、皆様が実施されるキャリアデザインプログラムのアップデートの一助となれば、これほどうれしいことはありません」
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
梅崎 修氏1970年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。2002年から法政大学キャリアデザイン学部に在職。専攻分野は労働経済学、人的資源管理論。新卒採用、就職活動、キャリア教育などの分野で日々新たな知見を発信している。主著「GIANT KILLING チームを変えるリーダーの掟」「大学生の学びとキャリア―入学前から卒業後までの継続調査の分析(共著)」等。