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event開催報告

2021.06.25「インターンシップの内容・手法の改善に向けて」クロージングキーノート

5,230名に実施した調査をもとに
インターンシップに関するリアルを分析

最後のプログラムは、インターンシップの研究を手掛けている、多摩大学 経営情報学部 准教授 初見康行さんの講演。「インターンシップの内容・手法の改善に向けて」というテーマで、本アワード応募法人のインターンシップに参加した学生5,230名(文系3,306名/理系1,924名)に実施した調査結果をもとに、専門家の視点から今後のインターンシップのあり方を考察してもらった。

「本日のテーマの1つは、インターンシップの内容を充実させるためのポイントについてです。全体のフローのなかで、特に力を入れるべきポイントをご紹介します」

また、2020年のインターンシップにおける一番大きなトピックスは、コロナ禍でその形態が多様化したことである。従来の対面によるオフライン型のほか、オンライン型、オフラインとオンラインのハイブリッド型が一気に広がりを見せた。まだコロナ禍が続く今も、試行錯誤しながらインターンシップのあり方を模索している企業や大学が少なくない。

「そんななか、もう1つのテーマとして、オンラインインターンシップの効果を探りたいと思います。オンライン型とオフライン型の比較を通して、インターンシップの提供手法が結果に与える影響などについて、一緒に見ていきましょう」

教育効果や志望度を高めるうえで知っておくべきこと

近年は、インターンシップに力を注ぐ大学が増えてきた。今回17の大学から応募があったことからも、その注目度の高さが見てとれる。大学関係者としては、インターンシップを学生の学習深化や学習意欲の向上につなげていきたいことだろう。では、教育効果を高めるには何が必要なのだろうか。

「統計的視点から、教育効果に有意な影響を与える要因を分析したところ、大学で学んでいる学習内容とインターンシッププログラムの内容が近いほど、教育効果に肯定的な影響を与えるという結果が出ています。つまり、インターンシップの教育効果はインターンシップに参加する“以前”から影響を受けるということであり、インターンシップをコーディネートする大学側の手腕が問われると言えるでしょう。また、事前・事後学習の充実が、教育効果の向上に強い影響を与えています。さらに、インターンシップを通して社会人基礎力などのスキル・能力の向上感が得られると、学習意欲や態度に肯定的な影響を及ぼすことも確認されました」(図1参照)

では次に、企業が実施するインターンシップで、学生の志望度の向上を図るためのヒントを見ていこう。そもそも、学生の志望度が高まるプログラムとは、どういったものなのだろうか。

「志望度の向上に最も重要な要因は、インターンシップに対する満足感です。つまり、大前提としていかに学生の満足感を高めるプログラムを準備できるかがカギになります。まず、そこがクリアできなければ、学生の志望度の向上を図るのは難しいでしょう。また、教育効果と同様に、事前・事後学習の充実が満足感に影響を及ぼしています。事前・事後学習の充実は他にも『就業体験の充実』や『社会人基礎力の向上』に影響を及ぼしており、教育効果や志望度向上の『要』と言えるかもしれません。さらに、社会人基礎力に代表されるスキル・能力の向上感も志望度の向上に肯定的な影響を与えることが確認されました」

▲図1:教育効果モデル

▲図2:志望度モデル

「実務を体験=満足度の向上」という
単純な構造ではない?

本アワード応募法人のインターンシップに参加した学生に実施した調査とその結果の分析をもとに、内容の改善に向けて初見さんが挙げたポイントは以下の3つだ。

ポイント1
プログラム内容だけでなく、インターンシップの前後が重要
└特に事前・事後学習を充実させることが、全体の満足感や教育効果を高める可能性がある

ポイント2
「実務を体験=満足度の向上」という、単純な構造ではない可能性
└実務体験によって「リアリティショック」を早期に受けていることが推測される

ポイント3
インターンシップの成果として、スキル・能力の向上を知覚させる
└業界や仕事の理解だけでなく学生のスキル・能力育成をサポートする

「意外だったのは『実務を体験=満足度の向上』とは限らないかもしれないという点です。あくまで推測ですが、大変さや厳しさも含めて仕事のやりがいを実感している学生がいる一方で、実務を体験することでギャップを感じてしまう学生がいる証なのかもしれません。実務を体験することはインターンシップにおいて極めて重要ですが、実務を体験すれば学生のインターンシップ満足度は向上する、という単純な図式ではない可能性に留意した方が良いかもしれません。また、短期的にはリアリティショックを受けて志望度が下がってしまうこともあるかもしれませんが、中長期で見た場合、早期のリアリティショックがギャップを減らし、最終的な企業と学生のマッチングを向上させる効果があるかもしれません。本件についてはさらなる分析が必要です」

仕事のリアルを伝えるうえで実務体験をさせることも重要だが、事前・事後学習の内容を充実させ、スキルや能力の向上感を高める工夫をすることが、より学生の教育効果や志望度を高めるうえで大切なようだ。

「特に、インターンシップに参加することで、どんなスキルや能力が身につくのかをしっかりアピールできている企業や法人が、まだまだ少ない印象です。この点を改善するだけでも、教育効果や志望度を高めていけるのではないでしょうか」

オンライン・オフラインによる
大きな差は確認されなかった

2020年は、「オンラインインターンシップ元年」となった。オンラインツールの普及が今後のインターンシップのあり方に大きな影響を与えることは、おそらく間違いないだろう。しかしながら「オンラインでの開催は本当に意味があるの?」と懐疑的な声があるのも事実。ところが、初見さんたちが行った調査・分析によると、意外な結果が明らかになった。

「参加したインターンシッププログラムの形式が、50%以上オンラインだった学生と、50%以上オフラインだった学生について、『インターンシップの満足度』『志望度の向上』『採用選考への参加意欲』『就職活動への意欲』『教育効果』5項目の平均値の比較を行ったところ、下記のような結果となりました」

【インターンシップの提供手法が結果に与える影響】

  • 『インターンシップの満足度』 オフラインの方が高い
  • 『志望度の向上』 オンラインの方が高い
  • 『採用選考への参加意欲』 オンラインの方が高い
  • 『就職活動への意欲』 オンラインの方が高い
  • 『教育効果』 オフラインの方が高い

わかりやすく説明すると、『志望度の向上』『採用選考への参加意欲』『就職活動への意欲』の3項目については、オフラインよりもオンラインインターンシップに参加した学生の方が、平均値が有意に高いという結果に。ただ、数値的には極端に大きな差はないという。

「5項目とも、オンライン・オフラインで有意差が確認されましたが、 大きな差(効果量Cohen’s d)は確認されませんでした。分析前はオフライン(対面型)のインターンシップの方が、平均値が高くなると予測していたのですが、今回の結果を見る限り、インターンシップの提供手法の違いが効果に与える影響はあまり大きくないと言えるでしょう。より正確な言い方をするなら、『オンライン形式のインターンシップは避けたほうが良いという、積極的な根拠は見つからなかった』というのが適切かもしれません。オンライン・オフラインというインターンシップの『手段』にこだわるよりも、まずはプログラムや事前・事後学習などの『中身』に注力した方が本質的な改善につながると思われます」

ポストコロナ禍における
インターンシップの『未来の当たり前』を創出

「今回の結果だけで、オンラインとオフラインの善し悪しを判断するのは難しい」と初見さん。特に2020年は緊急事態宣言下で急きょオンライン化を余儀なくされたケースが多く、企業や大学がオンライン形式、オフライン形式それぞれの強みを最大限に活かせていなかった可能性があるからだ。

「今後、ポストコロナ禍におけるインターンシップが洗練されていくにつれて、オンライン、オフラインによる効果の差がより明確に浮き彫りになる可能性は高いと推測されます」

これからの1~2年で、オンラインでやるべき内容と、オフラインでやるべき内容がさらに精査されていくはず。学生たちも「この内容ならオンライン参加でいいのでは?」などと、シビアにジャッジするようになるだろう。そのような時代において忘れてはいけないのは“いかに学生の期待を超えていけるか”といった視点に他ならない。

「ぜひインターンシップアワードから、フラッグシップとなるようなインターンシップの在り方を発信していきたいと考えています。そうすることによって、本アワードの社会的意義もさらに高まるはず。ぜひ皆さんも一緒に、インターンシップの『未来の当たり前』を創造していきましょう」

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