キャリア形成活動は学生・企業・大学の
三者に有益な活動
「第6回 キャリアデザインカンファレンス」を締めくくったのは、長年インターンシップに関する研究に携わってきた多摩大学 経営情報学部 初見康行准教授の講演。「キャリア形成活動と卒業後の活躍について」というテーマで、アワード参加学生などに実施した調査や分析をもとにしながら、今後のキャリア形成活動のあり方について語った。
「皆様方のご尽力のおかげで、インターンシップは今や大学生の約9割が参加するキャリア形成活動となりました。アワード参加学生への調査を通して、インターンシップの満足度の向上には、事前・事後学習、特に事後のフィードバックが非常に重要だということが明らかになっています」
また、インターンシップに代表されるキャリアデザインプログラムに参加した学生は、その後の大学での学習意欲が高まることがわかっているという。さらに、大学での専攻・専門に近い領域のプログラムに参加した学生ほど、教育効果が高くなるということが指摘された。
「そのほか、在学中にインターンシップ活動をした学生は、そうではない学生比べて、“就職活動・入社企業・大学生活の納得感”も高い傾向にある、という結果も出ています。つまり、キャリア形成活動は学生、受け入れる企業・団体、サポートする大学の三方すべてに有意義な取り組みだと言えるでしょう」
社会人基礎力が高い学生ほど、
入社後の「ワーク・エンゲージメント」が高まる
これまでは、「内定の有無」や「就職活動の満足感」が、キャリア形成活動の「成果」として測定されることが多かった。しかしながら、就職活動は社会人生活のゴールではなく、あくまでスタートに過ぎない。そこで初見准教授は、今回のテーマでもある「卒業後の活躍」について調査を実施。キャリア形成活動に参加した学生たちが、「卒業後、就職した会社で生き生きと働けているのか?」を追った。
「在学中のキャリア形成活動が卒業後に与える影響がわかれば、そこから逆算して学生たちが卒業後に活躍するために必要なキャリアデザインプログラムを導くことができます。分析するにあたり、まず“生き生きと働けている状態”を示す指標として、仕事に対する活力・熱意・没頭から構成される概念である『ワーク・エンゲージメント』を採用。これが高いほど、生産性の向上や離職率の低下、職務満足などにつながるとされています」
初見准教授の調査・分析によると、在学中の社会人基礎力の自己評価が高い学生ほど、入社後の「ワーク・エンゲージメント」が高い傾向にあることが判明。社会人基礎力というのは、経済産業省が提唱している「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」など、12の能力要素のことだ。これらの高さによって調査対象を“低群”“中群”“高群”の3グループに分け、卒業前の社会人基礎力と入社後の「ワーク・エンゲージメント」の関係を調べたという。
「卒業前の社会人基礎力は、卒業後の『ワーク・エンゲージメント』にポジティブな影響を与えることがわかりました。つまり、在学中にキャリア形成活動を通して社会人基礎力を育むことが、卒業後の活躍を促進すると言えるでしょう」
【社会人基礎力とワーク・エンゲージメントの関係】
では、社会人基礎力を向上させるものは何なのか。その答えを導き出すために、初見准教授は「マイナビ卒業前後調査」のデータを分析。その結果、自律的キャリア観が、社会人基礎力の向上に深く関連していることがわかったのだとか。
「『自律的キャリア観』とは、『会社に頼らず、自分のキャリアを自律的に築いていきたい』『自分のキャリアにおける成功や失敗は自分の責任である』『究極的には、キャリアを前進させるために頼るべきは自分自身だ』といったマインドのことです。あくまで憶測ですが、自分のキャリアを自律的にマネジメントしていかなければいけないと強く考える学生は、キャリア形成活動に積極的に取り組むようになるでしょう。それらの活動の結果として、社会人基礎力が高まっているのではないかと考えています」
社会人基礎力や自律的キャリア観を育むためには、
キャリア形成活動の内容が重要
初見准教授が実施したさまざまな調査・分析から、充実した社会人生活を過ごすためには、学生時代の社会人基礎力や自律的キャリア観が重要だということはよく理解できた。では、それらを育むためにはどうすればいいのだろう。
「その答えを知るために、社会人基礎力や自律的キャリア観が高い学生が、どのようなキャリア形成活動をしていたかを調べました。他の調査と同じように、社会人基礎力や自律的キャリア観の高さ別で“低群”“中群”“高群”の3グループに分け、分析を実施。まず、社会人基礎力や自律的キャリア観が高い学生は、早くからキャリア形成活動をスタートしていたのではないかという仮説を立てたのですが、実際は3グループにはほとんど差がありませんでした」
また、たくさんキャリア形成活動をした学生ほど社会人基礎力や自律的キャリア観が高くなるのではないかと考えた初見准教授。しかし実態を見てみると、3グループが参加したキャリア形成活動の「量」には大きな差はなかったという。
「調査・分析から判明したのは、キャリア形成活動の『内容』に違いがあるということ。社会人基礎力や自律的キャリア観が高い学生は、就業体験系のキャリア形成活動により多く参加している傾向があるということがわかったのです」
【キャリア形成活動内容の比較】
就業体験と低学年次からのキャリア形成活動が
キャリアデザインプログラム発展のヒントに
これまでに紹介した初見准教授のさまざまな調査・分析の結果を、簡潔にまとめると次のようになる。
◆ポイント1
在学中の社会人基礎力の育成・向上は、
卒業後の「ワーク・エンゲージメント」を高める
◆ポイント2
社会人基礎力(能力面)と、
自律的キャリア観(マインド面)は強く相関する
◆ポイント3
社会人基礎力や自律的キャリア観の育成において、
現在行われている各種のキャリア形成活動は有効
◆ポイント4
特に就業体験系のキャリア形成活動は
真剣に取り組むことによる伸びしろ(効果量)が大きい可能性がある
「今回の調査・分析結果から、キャリア形成活動における就業体験の重要性がよく理解できました。ただ、就業体験型のキャリア形成活動は、実施する側にも参加する側にも負担が大きい。さらに、現在は全学生が就業体験をするためのキャパシティ(参加枠)が不足しているのが現状です。その問題をどうクリアしていくかが、今後の課題だと言えるでしょう」
初見准教授はもうひとつの課題として、キャリア形成活動をする時期が3年次に偏りすぎていると指摘。実際、低学年次からインターンシップに代表されるキャリア形成活動に取り組む学生は、全体の2割程度しかいなかったという。
「3年次にあわてて動くのではなく、段階的にキャリア形成活動に取り組める体制づくりが重要だと考えています。例えば、1年次の後期に大学でキャリア系の講義を履修し、2年次にいわゆるオープン・カンパニーのようなものに参加。3年次に、インターンシップに代表される就業体験に参加する、という流れが理想的ではないでしょうか」
今後のキャリア形成活動の発展の方向性のひとつとして、1~2年次から参加できるキャリアデザインプログラムを充実させることがあげられるかもしれない。
「低学年次向けのプログラム開発に興味はあるものの、どうすればいいかわからないという企業・団体様も多いでしょう。そういったなか、本アワードやカンファレンスを通して、何かしらヒントが見つけてもらえるとうれしいです。世の中をリードしていくようなキャリアデザインプログラムを発信していくことこそが、本アワードやカンファレンスの大きな目的のひとつ。来年もまた、素晴らしいプログラムとたくさん出会い、そのノウハウやナレッジを皆様と共有していきたいと考えています」