『学生が選ぶインターンシップアワード』に初応募にして、見事、優秀賞に輝いた東芝グループ。インターンシップには20年以上前から取り組んでおり、学生を受け入れるのが当たり前の文化が社内に根付いているそうです。2019年度は227のテーマを網羅した一方、各テーマの受け入れ人数は1人~2人とごく少数。きめ細かで内容の濃いインターンシップを展開する、担当者のインターンシップにかける想いに迫りました。
沼田 知之さん/人事・総務部 人事企画第一室 採用グループ シニアマネジャー(前列左)
井上 敦史さん/人事・総務部 人事企画第一室 採用グループ エキスパート(後列中央)
―東芝グループの事業概略を教えてください。
井上さん:東芝グループというと家電製品などのイメージが強い人も多いでしょう。しかし、現在は「エネルギー」「社会インフラ」「電子デバイス」「デジタルソリューション」などのB to B事業主体の会社になっており、その中には電力や交通、半導体、官公庁向けIoTなど、社会の基盤を支える分野が数多く含まれています。
グループとしてサイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジーを駆使した「インフラサービスカンパニー」として更なる成長と企業価値の最大化を目指しています。ハードウェアなどを作り上げてきたモノ作り企業としての“フィジカル技術”と、モノからあふれるデータやインターネットなどを活用した“サイバー技術”を融合させることで、新しい価値を創出しようとしているのです。例えば、電力プラント向けに提供している設備の監視制御システムを通じたメンテナンスサービス、POSレジに蓄積された顧客情報を活用したデータ管理システムなどは、CPSテクノロジー活用の代表的な事例です。
―最新鋭のテクノロジーも数多く有しているそうですね。
井上さん:東芝グループを象徴する最新技術が「シミュレーテッド分岐マシン」です。量子コンピュータの研究段階で形になった計算式をもとに、一般的なコンピュータながらも量子コンピュータに近い形での高速計算を実現するもので、金融分野で具体的な検討が進んでおり、創薬や渋滞緩和などの分野でも活用が検討されています。また、「量子暗号通信」という理論上はセキュリティを破られない技術を確立したことでも注目されています。
沼田さん:東芝にAIやデジタルというイメージを持つ人は少ないかもしれません。しかしながら2019年に発表されたレポートでは当社のAI関連の特許出願数は世界第3位。トップ2社はアメリカの超大手IT企業ですので、AIでは世界最先端を走っているといえます。そもそも東芝は50年以上前からAIの礎となる研究を重ねてきました。1960年代には文字認識のシステムを用いて郵便物の自動仕分け技術を実現しています。
さらに言えば、精密医療分野でも研究開発を進めており、僅かな血液から13種類のがんを判別する「マイクロRNA」を用いたがん検診なども話題となりました。がんなどの遺伝子治療に不可欠な「リポソーム」の開発も進めています。世の中を根本から変えうる技術を複数有しているのが、東芝グループなのです。
―インターンシップは例年、どのような形態で行われているのでしょうか?
井上さん:2019年度でいえば、8月から9月にかけての約1か月間にわたり、「1週間」「2週間」「4週間」の3コースで開催しました。営業25、エンジニア202の合計227テーマを設定し、参加した学生は営業約30名、エンジニア約250名となりました。つまり、各テーマにつき1人から2人程度のごく少人数での実施です。
プログラムの流れとしては、初日はオリエンテーションやセキュリティ教育などからスタートしますが、残りは最終日のフィードバックを除き、すべて職場での業務体験となっています。1週間の短期のメニューであっても、オリエン等の時間を短くして、極力、職場に入ってもらうようにしています。
学生に課すテーマは非常に多岐にわたるのですが、たとえば電池の性能評価に携わった学生は実際に測定器を使って検査をして、データ解析まで行ってもらいました。また、営業の場合は実際にお客さま先に同行して、本物の商談を体験することもできます。
沼田さん:ちなみに初日にはすべての学生に自分の名前が印刷された名刺を配付しており、お客さま先はもちろん、社員と名刺交換しながら交流を深めてもらっています。ここでできた人脈は学生個人の人的ネットワークとして、これから社会に出るにあたって自由に活用してもらっています。
―本格的な就業体験だけに、現場のコンセンサスを取るのが難しそうですね。
井上さん:記録を見ると、東芝グループでは20年以上前からインターンシップを開催しています。規模等には変化はあるものの、現場で受け入れるという形は当時から基本的には同じであり、10年ほど前にはほぼ今の形態となっています。現場社員の理解を得るのは難しいというイメージがあるかもしれませんが、長く実績があるだけに受け入れもスムーズです。
沼田さん: 1週間という短期インターンシップを導入したときには「そんなに短い期間で学生のためになるのか?」との疑問が現場から上がってきたほど。かなり長い年月の実績があるだけに職場の姿勢も協力的です。
井上さん:そもそも東芝グループでは、インターンシップを採用の一環ではなく、社会貢献活動として位置づけており、学生の就業感を醸成することに何よりも力を入れてきました。採用活動開始後も最近までは参加者に声をかける習慣もほとんどなく、選考でも優遇措置は基本的にありません。
昨年度には11月にフォローアップのイベントも開催。就活が本格化したとき東芝の名を思い出してもらいたい思いもあったものの、インターンシップから数か月を経て、改めて就業意識を持ってもらうという意味合いが強いイベントとなりました。
―どのようなコースが人気を集めていますか?
井上さん:昨今の流れで機械学習などに応募が集まっています。メーカーだけに設計職もやはり人気ですね。
沼田さん:研究開発も人気コースの一つ。研究開発の最前線に立つ研究施設に入ることができるだけに、その臨場感を肌で感じてみたい学生は多いようです。東芝の研究所は機密情報が多く、セキュリティ上の問題もあるのですが、それよりも研究者たちの「学生のキャリアに貢献したい」という思いが強く、積極的に現場も受け入れてくれています。もちろん学生に対してはセキュリティ教育を施した上で、秘密保持契約もしっかりと結んでいます。
―学生からの反応はいかがですか?
井上さん: おかげさまで99%の学生に「満足度が高かった」と答えてもらっています。これも事前に学生のやりたいことを明確にした賜物です。実際、事前の学生とのコミュニケーションは密に取っており、個々の特性やレベルに合わせてコースの難易度等を柔軟に変化させています。現場の社員たちも直接、学生の声を聞いたり、エントリーシートを見ながら、ちょうどいいレベルの課題になるようにアレンジしてもらっています。
希望とは異なる別部署で経験を積んだ方が学生のためになると判断すれば、こちらからテーマの変更を提案することもあります。また、場合によっては、希望に合わせて新しいテーマを用意することも。そうした対応の積み重ねの結果が、200以上の多様な受け入れ先に発展しました。
―社員のみなさんの声を教えてください。
沼田さん:社員たちからも毎年、新人を受け入れることで刺激を受けているとの声が上がっています。学生のお世話係として年の近い若手社員をメンターとして配置しているのですが、インターンシップ中に学生の疑問点に答えていく中で、メンターが新しい気付きや学びを得ている姿も見て取れます。
井上さん:うまく学生に事業内容を理解してもらえれば、東芝のPRにつながるという意識も職場側に根付いています。B to B主体の企業だけに事業内容がわかりにくいところがあるからこそ、直接、東芝グループの仕事を体験した学生が発信源となれば、より多くの人に私どもを理解してもらうきっかけとなるのだと思います。
―採用に影響はございましたか?
井上さん:採用に直接的に結びつけてはいないとはいえ、インターンシップをきっかけに応募をする学生は増えてはきています。職場を見ているだけに理解も早いですし、マッチングという意味でも高いレベルに達しているとの手応えは得ています。
就職前後のギャップに悩む若い人は多いですから、インターンシップを通して職場を知り、働くイメージを持つというのは意義あること。結果として東芝には入らず、同業他社を選んだインターンシップ参加者も少なくありませんが、電機業界で活躍してくれる学生が増えるのは業界全体にとって刺激となることだと捉えています。
―現状の課題はございますか?
井上さん:学生にはアンケートで評価をつけてもらっているものの、十分に効果を測ることができていないのが課題の一つです。もっと違う角度の効果測定方法が必要だと考えています。
また、インターンと就職活動が切っても切り離せない流れになっている中で、就職活動を意識した学生にもメリットを感じてもらえるようなプログラム設計も必要になってくるとは思っています。明確に採用に結び付けるまでは今のところ考えていませんが、採用の情報を早く提供するとか、OBOGへのコンタクトポイントを増やすといったことはできるかもしれません。
沼田さん:東芝では昔からインターンシップは長期開催というパターンを定着させています。1週間のプログラムを作ったのも昨年からですし、工場や事業所の見学は行っているもものの1Dayインターンシップは今も開催していません。今後、もし短期で開催するのであれば、どういう風にプログラムをまとめるのかが課題でもあります。
―アワード受賞の感想をお聞かせください。
井上さん:率直にありがたいですし、当社のインターンシップの方向性が間違っていないと実感しました。これをきっかけにもっと多くの学生に東芝に目を向けてもらえたら幸いです。
沼田さん:受賞は素直に嬉しいと感じています。これだけ多くのコースがあると受け入れる職場にとっても大変な部分が多いのも事実。受賞により社内のモチベーションがぐっと高まり、より前向きにインターンシップに臨めると感じています。
インターンシップに関しては客観的な数字に基づいた検証はしていないだけに、外部のものさしでインターンシップを見てもらいたいという思いも、アワードに応募する背景にはありました。学生が主体となり、有識者の声も含めて客観性を担保して企業を評価しているイベントですから、まさに“ものさし”という意味では最適の存在でした。受賞をきっかけにインターンシップの内容をさらにブラッシュアップしていきたいと思っています。
―インターンシップに取り組もうとする企業にアドバイスをお願いします。
沼田さん:インターンシップの最大の目的は、学生のキャリア感や就業感を醸成することにほかなりません。明確に将来について考えていなかった学生が、リアルな職場で社員とのコミュニケーションを重ねていけば非常に多くの経験が得られるはず。人事がしゃべって、ワークショップ等を開催するという形から、一歩先に進んでみてはいかがでしょうか。
井上さん:東芝グループでは職場体験できるようなインターンシップにしているだけに、毎回、学生から高い評価を得られているのだと思います。もちろん円滑な開催のためには職場理解が大切です。
沼田さん:職場内のコンセンサスを取るのが難しいという向きもあるでしょうが、インターンシップの応募状況なり、プロモーションの内容なりといった情報を、積極的に社内開示していくと、おのずと職場内も受け入れに向けて準備をしてくれるようになると思います。
井上さん:世の中にインターンシップがまだまだ浸透していない時代に開始した当初は、東芝の中でも課題はいくつかあったはずです。インターンシップに向けて全社を挙げて積極的に動く風土を、私どもは時間をかけて養ってきました。アワードを通してより良い事例が世の中に数多く紹介されることで、学生にとって有用なインターンシップを開催する文化が広がっていってほしいと思います。
「学生が選ぶ
キャリアデザインプログラムアワード」
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