第3回インターンシップアワードにおいて栄えある文部科学大臣賞に輝いたのは、東京都市大学の海外インターンシップでした。実施の裏側やインターンシップアワードへ参加した感想を、同大学学生支援部部長の住田曉弘さんに伺いました。
住田 曉弘さん/学生支援部 部長(写真右)
―文部科学大臣賞の受賞、おめでとうございます。まずは率直な感想をお聞かせください。
ありがとうございます。私はJASSO(独立行政法人日本学生支援機構)の協力者として、インターンシップ専門人材の研修講師など、より良いインターンシップの普及促進に向けた活動もしています。そこで大切にしているインターンシップの在り方というのは、単に採用に結びつくものではなく、学生自身の学びにつながるようなものです。本学においても、その点を意識してプログラムを実施してきました。今回の受賞によって「私たちが取り組んできたことは間違っていなかったのだ」と、改めて認識できました。
―アワードに応募しようと思った理由を教えてください。
これまでも“本学のプログラムは日本一のものだ”という自負を持って実施してきましたが、客観的な指標みたいなものはなかったんですね。ほかの大学のプログラムと比べたときに、実際のところ、どの程度のものなのかはわからなかった。ですから、今回、このアワードに参加させていただくことで、どのような評価が下されるのかというところには非常に興味ありました。また、他の大学や企業の取り組みを知ることができ、私たちがやってきたことを大学の外に発信する機会にもなるので、そういった意味でも参加するメリットは大きいと思いましたね。
―このアワードの特徴として、有識者だけでなく学生も評価に参加している点が挙げられます。その点についてはどのように感じられましたか?
このアワードでは学生の視点も入るため、学生が当事者として「自分たちにとってどんな成長ができるプログラムなのか?」というのも基準の一つになっていると思います。そういった視点が入るというのは、有識者だけで選ぶものとは異なる価値があるのではないでしょうか。
―海外インターンシップを実施する上で、どんなことを大切にしていますか?
一番はやはり学生の成長です。プログラムではそのために次の三つを目標として掲げています。一つ目は海外生活や仕事をやり遂げる経験によって、逆境を乗り越える力を身につけること。二つ目は多様なバックグラウンドを持った人たちとのコミュニケーションを体験することで、グローバルな人材への一歩を踏み出すこと。三つ目は就業体験を通じて自分の課題を認識し、大学での学びに対するモチベーションアップにつなげてもらうこと。興味のあるインターンシップに参加し、さまざまな経験から成長への課題を見出し、帰ってきて大学の授業で真剣に学ぶ。こういった流れを作ることがキャリア教育として重要だと考えています。
―インターンシップによって学生たちはどのように変わりますか?
毎年参加する学生と面談を行っているのですが、最初は「この子、大丈夫かな?」と思っている学生でも、帰ってくると見違えますね。「学んできたことが現地で生かせた」とか「もっと勉強しなくては!」とか、大学で学ぶ意義を実感して、意欲的になって帰ってきます。起きてから寝るまで外国人に囲まれて生活するわけですから、「自分でなんとかしなくちゃいけない」ということで主体性が培われますし、異文化に触れることで視野も広がります。受け入れ先が日系企業の場合は、現地で働く日本人の姿を見られるので、自分の将来像をイメージしやすくもなっているようです。
―有識者や学生からの評価では、“フォローの手厚さ”が上げられていました。
インターンシップのテーマにしても海外インターンシップ専門委員会委員の教職員と企業が相談して、一人ひとりの学生に合ったテーマを作っていますし、就業中に専門委員会委員が海外の現地に行き実習内容をチューニングすることもあります。こういったことは仲介業者を通じたインターンシップではできないことです。
就業中については、無料通話アプリのグループを使って私と専門委員会委員長の桃沢(写真右から2番目)、および派遣先担当委員が学生からの相談に24時間体制で対応しています。また、学生には日報をつけてもらうのですが、事務局では日報に基づいたキャリアカウンセリングのようなアドバイスも実施しています。そこで課題などを深掘りし、明確化してあげることで、より大きな学びにつなげているのです。
―教員と職員が一体となってサポートしているのですね。
事前学習として、専門委員会の教職員が実習内容に即した専門知識、語学指導、海外生活における留意事項および危機管理指導等を行うほか、派遣期間中や帰国後の学生の成果報告については担当教員がプレゼンテーションの指導を行っています。“学生が企業に対していかに貢献できるか”という点を大切にしているので、その辺りは教員・職員が一緒になってフォローしています。
例えば、インターンシップのテーマとして“生産ラインの改善施策を考えよ”というものがあったとしたら、学生が施策を考える上で教員がアドバイスしていきます。プログラムの中で、学習し、課題を見つけ、成果を出すところまで導いていくわけです。実際、学生の提案を実践してくれた企業もあり、Win-Winのインターンシップになっているのではないでしょうか。
―海外インターンシップの受け入れ企業は累計で41社にも上っています。これだけ多くの企業から協力を得られる理由はどこにあるのでしょうか?
海外インターンシップの場合、受け入れ企業の70%がOBからの紹介です。「これからの時代、学生たちを育てるには海外での経験が大事」ということで、校友会の中に海外インターンシップ特別部会というものを立ち上げて全面的に協力していただいています。残りの30%は教員・職員のつながりがある企業です。私も以前は別の会社に勤めていたので、その関係で受け入れてもらいました。
長い期間にわたり受け入れていただいているので、企業側としても相当の負担があると思います。それでも継続的にご協力いただけているのは、OBのつながりに拠るところが大きいです。「インターンシップを通じてグローバルで活躍できる日本人を育てよう」という想いを持って応援してくださるのは、大学としても非常にありがたいと思っています。
―学内には海外インターンシップ専門委員会というものも立ち上げられていますね。
キャリア委員会内にあった海外インターンシップのワーキンググループと国際に関係する組織が5年ほど前に共同で立ち上げた委員会です。現在は21名で構成されており、教員と職員それぞれが役割を持って両輪となって海外インターンシップを支えています。海外インターンシップ受け入れ企業の開拓や調整、学生へのインターンシップの周知および派遣学生の選抜は教職員が共同で行うほか、教員は現地指導も含めた派遣前から帰国後までの学生の指導を行います。職員は学生の派遣準備から派遣中の日常面のサポートを含め、面接や説明会等のスケジュール調整や成果報告会等インターンシップの全般的な運営を行っています。
仲介業者などを使わずに教職員が直接出向いて開拓していく。だからこそ、安い費用負担で学生を派遣できる。安いところだと、1カ月間の滞在で学生の自己負担を6万円台に抑えられるので、学生たちも手を挙げやすくなっています。
―まさに大学全体でインターンシップに取り組んでいる感じですね。
数年前に文部科学省のGP事業に選ばれたことをきっかけに大学全体でのインターンシップの定着が進められてきました。GP事業・AP事業の選定は継続して受けており、それによって学内へのインターンシップへの認識を高めてきた感じです。現在では大学の中長期計画に海外インターンシップの目標も組み込まれています。そこでは、参加人数の増加や受け入れ先企業の新規開拓を目標としているのですが、そのための予算も中長期計画の中で確保されています。
教職協働で、教員と職員が一緒になって学生たちをどう育てていくのか、さらにOBも加わって学生をどう育てていくのか、そういった連携体制を作り上げることが大切なのだろうと思います。
―今回アワードに参加してみて良かったポイントは?
「我々の提供している価値ってなんだろう」と、改めてこの10年近くのことを振り返ることができ、それを言語化ができたのは大きいですね。今後受け入れてくれる企業や参加学生を増やしていく上で、今回の受賞が追い風になってくれるのではないかと思います。アワードを取ったプログラムであることを伝えれば、「日本一のプログラムなのだな」と、学生たちも当然興味を持ってくれるでしょう。また、新しい受け入れ先企業を開拓していく上でも、アワードの実績があれば「良いプログラムなのだな」と理解してくださるのではないでしょうか。
―大学内での海外インターンシップに対する理解もさらに高まりそうですね。
このプログラムは夏休み期間を丸々使うので、時間的にも費用的にもコストがかかるものです。学生の参加費用の半分は大学の奨学金として出しているので、大学内からも理解を得ることは重要です。「なぜ学生が成長できるのか?」ということを言語化し、客観的な評価を得られたことは、理解を得る上でもプラスに働くと思います。
それから、このインターンシップは受け入れ企業やOB、教員、職員など、多くの方々の協力があって実現できているものなんですね。採用に直接結びつくものではないのですが、“学生たちを育てる”というところに賛同していただき、ボランティア精神で協力してくれています。今回の受賞はそういった方々にも喜んでいただいており、本当に良かったです。
―海外インターンシップを今後どのように広げていきたいですか?
計画に沿って規模は拡大していきます。本学は2029年に100周年を迎えるのですが、現在はそこに向けてアクションプラン2030による中長期計画を進めているところです。そこには規模拡大の数値目標も盛り込むので、数値目標に見合った体制を作り上げていく必要があります。拡大していく中で、学生に対しても企業に対してもクオリティを維持していくには、いかに組織をマネジメントしていくかということが重要になります。サポートする教員と職員がうまく連携していかないと破綻してしまいますから。そうならないためにも、組織としてどう推進するかを熟慮しておく必要があるだろうと考えています。
あとは、この海外インターンシップが学内にとどまらない展開になれば良いなと。本学の学生に限らず、日本の学生全体の成長機会が増えれば、それに越したことはないですから。ですから、本学のプログラムをグッドプラクティスとして他の大学にも真似してもらえるようになると嬉しいですね。もちろん、それを実行するにはそれなりの労力やコストが生じるので、大学側にも覚悟はいると思いますが。
―最後に、このインターンシップアワードには今後どのような役割を期待しますか?
学生たちの学びをより大きなものにするような、そんなインターンシップを企業と一緒に作り上げていきたいという想いがあります。ですから、このアワードを通じて、企業に対しても、学生に対しても、良い取り組みをどんどん広めていってほしいと思います。インターンシップで学んだ経験自体が評価され、これから社会に出ていく学生たちの活躍の場が広がっていけば良いですね。
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