「南九州から世界に羽ばたくグローカル教育研究拠点」というスローガンを掲げ、地域活性化の一翼を担うと同時に、世界水準の研究拠点を目指している鹿児島大学。9つの学部と9つの大学院研究科を擁し、約1万1,000名の学生が学んでいる。
今回、文部科学大臣賞を受賞したのは、職場適応力・課題解決力・プレゼンテーション力の向上を目的とした、キャリア教育プログラム(地域人材育成プラットフォーム)の総仕上げに位置付けられる「課題解決型インターンシップ」。地元企業が抱える課題の解決策を学生目線で提案するという、地域に密着したプログラムだ。10日間の充実した内容に加え、60ページもの丁寧なガイドブックを作成し、学生が目的を明確にしたうえでインターンシップに参加できる点が、学生から多くの支持を集めた。
文部科学大臣賞の受賞が発表され、感想を求められたキャリア形成支援センターの藤村一郎さんは、「まさか文部科学大臣賞を受賞できるとは思ってもみなかったので、大変驚いています」とコメントした。
課題解決型インターンシップは、さまざまな大学で実施されている。そんななか、同校のプログラムはサポート体制の手厚さが光った。まず、事前学習では業界や企業の研究の場を用意。そして、10日間のプログラムが終わった後も、キャリア形成をするうえで現在の立ち位置を把握し、次の目標を立てられるよう、事後学習の機会を提供した。さらに、インターンシップの成果をアウトプットする成果報告会も設けている。
「インターンシップの内容や手続き方法を学生にわかりやすく伝えるために、ガイドブックは大学のホームページからも閲覧できるようにしました。気になったときに、いつでも見ることができ、理解を深められるよう、詳細なスケジュールや必要書類も掲載。そうすることで、インターンシップに対する学生の心理的ハードルを下げることができたと感じています」
今回のインターンシップには大学1年生から大学院1年生まで、20名の学生が参加。地元企業が抱えるさまざまな課題に、真っ正面から取り組んだ。課題解決型インターンシップの魅力は、リアルな課題を解決に導くことで、ビジネスの醍醐味を体感できること。ただ、そのメリットを享受できるのは学生だけではない。受け入れ先もまた、大きな収穫を得られるという。
「前年に学生を受け入れてくださった企業や事業所に、課題解決型インターンシップのメリットに関するアンケート調査を行いました。すると『組織が抱える課題解決へのヒントが得られた』が90%以上、『人材育成を通して社会的貢献ができた』『最近の若者の思考や行動の特徴を把握できた』が80%以上という結果に。このデータは、課題解決型インターンシップが受け入れ先からも高く評価されている証だと言えるでしょう」
では、同校の課題解決型インターンシップとは、どんなプログラムなのだろう。藤村さんが具体的な事例を2つ紹介してくれた。まず1つが、鹿児島の基幹産業である、畜産業界の若手人材不足という課題に挑んだ事例。共同獣医学部の1年生が畜産企業でのインターンシップに取り組みながら、業界に対するネガティブイメージを払拭するために仕事の魅力をPRしたという。
「畜産業界の魅力について綿密な独自調査やインタビューを実施し、若者目線で仕事のやりがいなどを伝えるパンフレットやインターンシップ体験記、お仕事体験動画を制作。それら成果物は、受け入れ先のホームページにも掲載されました」
同校のインターンシップの成果は、学生の成長だけにとどまらない。次に紹介するのは、インターンシップに参加した学生のキャリア観の形成に、大きな影響を与えた事例だ。
「文系学部の3年生が、ある製造業の会社の業務効率化に挑みました。工場での組立工程の再検討などを行い、業務の無駄を省く改善策を提案。もともとは県外企業に就職するつもりでしたが、このインターンシップに参加して地元企業の魅力に気づきました。そして、鹿児島の製造業に絞って就職活動をスタートさせたのです。しかも文系でありながら、理系学生が目を向けがちな職種にも挑戦。インターンシップを通して、業種や職種への理解を深めた結果、自分が本当にやりたいことを見つけることができた好例だと言えるでしょう」
課題解決型と並ぶ同校のインターンシップの大きな特徴は、地域との連携にある。今回のインターンシップでは、実に県内の29の事業所から、36ものプログラムが提供された。地域を巻き込む工夫について、密なコミュニケーションをとる機会を設けた、と藤村さんは振り返る。
「インターンシップに協力してくださる受け入れ先とは、準備段階から毎月1回は連絡を取り合うフローを構築。コミュニケーション機会を意識的に多く設けることで、気軽に何でも相談していただける関係づくりを目指しました。もちろん、インターンシップのプログラム作成も手厚くサポート。キャリア形成支援センター内にある専用窓口で、逐一対応できる体制を整えているのです」
また、課題解決の成果を発表する成果報告会は、地域交流の場としても機能。コロナ禍の影響で今回はオンライン開催となったが、インターンシップを実施した、もしくは実施を検討している企業や事業所だけでなく、地元の自治体や経済団体を含め、100名以上が参加したという。
「成果報告会は、インターンシップに参加した学生の成果を発表する大切な機会であると同時に、地域の企業や事業所、自治体、経済団体をつなぐ、サロンのような役割も果たしているのです」
コロナ禍において、大学ではリモート授業という新たな学習スタイルが誕生した。どこにいても授業が受けられるようになった今、地方大学の存在意義が大きく問われている。
「極論を言えば、鹿児島にいながら全国の大学のリモート授業を受けることができる時代です。そんな今だからこそ、私たちが提供している課題解決型インターンシップの重要性を再確認できたと考えています。インターンシップを通して、地域を巻き込んで学生を育成できると同時に、学生たちに地元の魅力を再発見してもらうことができるのです。このことこそ、鹿児島大学のプラスαの存在価値だと言えるでしょう」
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