「自主創造」という教育理念を掲げ、1889年に日本法律学校として創立された日本大学。16学部86学科、短期大学部4学科、大学院21研究科78専攻と幅広い学問分野を擁し、約70,000人もの学生が通う日本最大規模の総合大学だ。生産工学部では、エンジニアリングデザイン教育とキャリアデザイン教育に注力し、モノづくり全体をフカンできる経営者視点を有した技術者の育成を目指している。
工学の専門知識に加えて、経営やマネジメントの素養を身につけたビジネスエンジニアを育てるために、1年次から3年次にわたって全学科共通の生産工学系科目を用意。そこで身につけた知識やスキルを、3年次からの「生産実習」へとつなげていくという。「生産実習」は、国内外の約1,000の企業や官公庁で、多岐にわたる就業体験を行うというもの。生産工学部生産実習委員会の委員長である細川利典さんによると、生産工学部の誕生以来、70年以上にわたって必須科目として続けられてきたという。
「『生産実習』は、エンジニアリングデザイン教育とキャリアデザイン教育を柱とする生産工学系科目の中核を担うプログラム。“経験を学びに変える力”と“生涯学び続ける力”を身につけることを、学習到達目標に掲げています。プログラムの内容は、時代のニーズや社会の変化に合わせて毎年ブラッシュアップ。70年以上もの歴史を誇るプログラムながら、常に最先端を追求しています」
メカトロ装置の開発・設計・性能評価から半導体の設計・製造、都市計画に関わる業務、意匠・構造設計、化学製品・薬品の研究開発、各種ソフトウェアの開発、環境・安全・エネルギーに関連する業務、生活用品や家電、工業製品のデザインまで、実習内容はさまざま。国内だけでなく、海外で実施される実習もある。多岐にわたる就業体験を提供できる点やフィードバック、事後学習が充実している点が評価され、優秀賞に選ばれた。
「生産実習」は、概要説明会からスタートし、自己分析と企業研究を踏まえて、学生が主体的に実習先を選択。そして、Specific(具体性)・Measurable(計測可能性)・Achievable(実現可能性)・Relevant(関連性)・Time-bound(明確な期限)の5つの要素を掘り下げていく「SMARTの法則」に従って、将来を見据えた成長目標を設定していく。また、「生産実習」のワーキングリーダーを務める中村倫明さんによると、「Katzモデル」を用いた経営的視点の学習も実施しているという。
「『Katzモデル』とは、それぞれのマネジメント層に必要とされる能力を階層別、スキル別に分類して明示した理論のこと。各ステップで求められるマネジメントスキルが異なることを理解することで、学生は社会に出て10年後、20年後の自分を意識しながら実習に参加できるようになります」
事前学習をしっかり行った後、学生たちは国内外の約1,000の企業や官公庁で実施される多岐にわたるプログラムのなかから、自分にフィットしたものを選択していく。セレクトの際には、生産工学部生産実習委員会が手厚くフォローするのも特徴だ。
「例えば、ミスマッチを防ぐために業界についての理解を深める業界セミナーを開催しました。実際にその業界で活躍する方々からリアルな説明を聞きながら、自分に合ったプログラムを選ぶことができます。また、外部講師によるビジネスマナー講習、企業による安全・倫理講習会なども実施。そのほか、海外実習への参加を希望する学生に向けて、約2週間にわたる事前の語学研修も用意しています。学生一人ひとりが、それぞれの成長目標に向けて自分だけのインターンシップをつくりあげていくことが、事前学習の大きなテーマだと言えるでしょう」
「生産実習」の特徴は、それだけではない。自己分析や企業研究、目標設定の際に活用し、実習がスタートすれば実習日誌にもなる、自己学習型のオリジナル教材「生産実習NOTES」を用意。学生が日々の取り組みを振り返り、気づきと学びを重ねながら自ら成長する楽しさを実感できる工夫がなされている。
「学生と実習先、大学をつなぐ独自のオンライン・プラットフォーム『生産実習SYSTEM』があるのも、大きな特徴です。毎年、約1,500名の参加学生や実習先の情報を集積。参加学生の目的や目標、取り組み、成果・評価などを共有して、学生に気づきを促しています。また、実習先のプログラム内容や求める人物像を共有できるのもポイントだと言えるでしょう。さらに、実習後には実習先による客観的評価を具体的に可視化。自己評価と見比べながら、学生は『生産実習NOTES』を用いて振り返りを行っていきます」
「生産実習NOTES」と「生産実習SYSTEM」を活用した実習の成果は、数字にしっかり表れている。協働力や統率力、行動持続力、課題発見力、実践力など9つの要素から構成される学生たちの基礎力が、実習後に大きく向上したという。
「経営的視点を養いながら『生産実習』に参加したことで、特に統率力が大きくアップしています。また、『生産実習NOTES』で実習後の振り返りをしっかり行うことで、行動持続力も伸びました。別の社会人基礎力診断でも、『生産実習』に参加したことで、学生たちの主体性や実行力が高まったという結果が出ています」
参加者の満足度は86%と、学生たちから高い評価を得ている「生産実習」。「業界・職種に対する理解が深まった」「学習意欲が高まった」「主体的に取り組むことの大切さを感じた」と、ポジティブな感想がたくさん寄せられている。高い教育効果を生み出すことができたのは、「生産実習」を必須科目として組み込むと同時に、早くからキャリアデザイン教育に注力してきたからこそだと言えるだろう。
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