今回初めて実施された「学生が選ぶインターンシップアワード」。学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップを表彰するもので、247社、297プログラムの応募がありました。数あるプログラムの中から見事、大賞を受賞した富士通の人事本部人材採用センター長を務める佐藤渉さんに大賞受賞について話を聞きました。
― まず応募のきっかけから教えていただけますか。
今回、受賞させていただきました「職場受入れ型インターンシップ」は、10年以上取り組んできたプログラムです。これまでインターンシップを終えた学生の方からのアンケートや受入れ部署へのヒアリングなどで、課題抽出を行い、改善を重ねてきました。学生の皆さんにより多くの学びを提供しうるプログラムとするために試行錯誤を繰り返してきたものの、当社のインターンシップがどれくらいの価値があり、どういうレベルにあるのか、客観的な評価やフィードバックを受ける機会があればと思っていました。そんなとき、タイミングよくマイナビさんからお声掛けをいただきました。
アワードの趣旨をお伺いすると、「学生が選ぶ」というキーワードや有識者の方が加わって評価いただけると知りました。このように多面的な視点で評価いただけるというコンセプトについてとても魅力を感じました。
いろいろな立場の方に評価していただくことで、より有効なフィードバックをもらえるのではないかとの期待感がありました。また、アワードの趣旨である「インターンシップの有効性を広めていく」「質を高めていく」「学生と企業との採用マッチングの精度を上げていく」という趣旨、一つひとつどれを取っても賛同できるものでした。私たちがこのアワードに参加させていただくことで、微力ながら、この取組みを盛り上げ、少しでも大きなムーブメントにしていくことに役立てればという思いもあり、応募するに至りました。加えて世の中にはまだ知られていない優れた取組みがたくさんあると思っているので、アワードに応募すれば、新たな知見が得られるのではないかという思いもありましたね。
― 大賞受賞の期待はありましたか?
受入現場はもちろん、私達も長年にわたり地道に取り組んできたプログラムでしたから、何か賞をいただけると励みになるだろうとは思っていましたが、まさか大賞をいただけるとは思っていませんでしたので本当にうれしかったです。また、当初の期待どおり受賞にあたり学生、そして有識者の方々から多面的な評価をいただいたことも非常にありがたかったです。
自分達が意識してつくりこんできた点を評価いただいただけでなく、「キャリアの焦点化と展望化が両立している」とか「具体と抽象のバランスのよさ」など、私達が意識していなかった部分についての評価・ご指摘もいただき、新たな視点を得ることができたのも大きな収穫でした。これまでの取り組みが報われたとの思いと同時に、自分達がやってきたことに自信を持つことができたのは、今後のさらなる改善に向けた原動力になると感じています。
― 2018年5月14日の授賞式はいかがでしたでしょうか。
授賞式では、受賞された各社様がこれまでの取り組みについて、かなり踏み込んだ話をされていたので、新たな知見を得るという観点からも期待以上の充実した内容でした。また控室で各社様とあいさつをさせていただき、新たなネットワークができました。ある意味、インフォーマルな情報交換ができる関係ができたことは大変有意義でした。
― 大賞を受賞して反響はいかがでしたか。
今回、受賞の反響はとても大きかったですね。特に日本経済新聞に本アワードの特集記事が掲載された時はものすごい反響がありました。社内外からメールやお電話をたくさんいただきました。余談ですが、会社の大先輩であるOBやOGの方、地元の古い友人からも連絡がきたりとインパクトは大きかったです。
5月の授賞式を経て、夏には同じ職場受入れ型のインターンシップを行ったのですが、「アワードを見て応募した」という学生の方が多数おられたのは、本当にうれしかったです。インターンシップを客観的に評価していただける場に参加したい、との一心から応募したのですが、自分たちの取り組みについて世間に広く知っていただけるいい機会になったと実感しています。通常どおり、募集サイトを見て関心を持ってくれた方たちに加えて、おそらくアワードの受賞がなければ関心を持ってくれなかったと思われる新たな層からの応募も増えたと感じています。インターンシップが本当に有益なものかを確かめたいという学生の方も中にはおられたようでしたので、そういう意味でハードルは上がったと思いましたし、身が引き締まる思いでもありました。でも実施後のアンケートで「受賞の理由が納得できました」や「受賞にふさわしい充実したものでした」などのコメントをいただき、ホッと胸をなでおろしました。
採用のウェブサイトにも大賞受賞のバナーを貼ったことでPRになりましたし、さまざまな企業や団体、大学からお問合せをたくさんいただきました。情報交換や講演会に関するご要望も多数いただき、大変光栄でした。スケジュールの都合上、あまりお応えできないところもありましたが、いくつかの企業様とは情報交換会を実施させていただきました。またお客様から営業担当者宛に、お問い合わせをたくさんいただき、広報・宣伝という観点でも予想外の効果があり、営業からも感謝されました。
― 社内では反響はありましたでしょうか。
社内での反響もかなり大きかったです。
社内報で受賞を取り上げてもらい、インターンシップの取り組みについて社内表彰も受けました。
それに何よりうれしかったのは、学生の皆さんを受け入れている職場側のモチベーション向上につながったことです。135ものテーマを用意し、3週間、学生のみなさんがインターンシップを通じた学びを得ていただくために、プログラムの中身について職場側と何度も議論や打ち合わせを重ねていきます。時には、プログラムのクオリティを高めるために、私達企画側と職場の間にコンフリクトが生じることもあるわけですが、よいプログラムをつくりあげるために共に頑張ってきたチームでもありますので、その努力が報われたとの思いはひとしおです。今回、大賞を受賞したことでその有効性が認められ、今後の改善に向け弾みがついたと感じています。この効果は、公の場で褒めていただいたからこそだと思います。
― 今後のインターンシップへの抱負をお聞かせください。
まずは「職場受入れ型」の継続にはこだわっていきたいと考えています。学生のみなさんにとっての学びの質向上や、「働くことのリアリティ」を経験できる場をいかに提供できるかについてさらに追求していきたいと考えています。加えて今後は時期を含めた実施形態と対象者の多様化に取組んでいきたいと思います。今、職場受入れ型のインターンシップは、夏の期間しか行っていません。ですが、研究やゼミ活動、留学などの事情で参加できないという優秀な学生の方も多いと思います。ですから、他の時期にも受け入れられるようにバリエーションを増やしていく必要があると考えています。また、1dayや2dayといった短期間のインターンシップにおける学びを高めていくことにも引き続きチャレンジしていきたいと考えています。
また、インターンシップを経験することにより、学校での学びを社会や仕事とリンクさせ、「目的をもって学ぶ」意識を醸成していくことが重要であると考えています。ですから富士通のインターンシップは、これまでも学年や年齢を問わず応募できるようにしていますが、今後はより低学年の皆さんにも体験していただきたいと思っています。可能な限りリアリティある職場環境や業務体験を提供すると共に、多くの社員や他のインターン生との濃密な接点が持てるようアレンジしてありますので多様なインプットが得られると思います。また、自分はいけているのか、それともダメダメでもっと学ばないといけないのかなど、今の自分がどういう位置にいるのか、ベンチマークするための有効な機会にもなるはずです。
慣れ親しんだ居心地のよいコミュニティから一歩踏み出し、インターンシップという別世界に身をおいて自己を表現し多くのフィードバックを受けることで自分をもっと深く理解することができると思います。
― リアリティーという話が出ましたが、お客様先でプレゼンする機会もあると聞きました。
もちろん、受入職場の担当者がお客様に対して、事前にしっかりとコミュニケーションを取らせていただきます。もちろん、「NO」と言われることもありますが、歓迎してくださるお客様も増えています。富士通では、新規ビジネス領域に数多く進出しています。それらのお客様にインターンシップのお話をさせていただくと、デジタルネイティブ世代の意見を聞きたいというお客様がたくさんおられます。
当社ではもともと、挑戦することをよしとする社風があり、とにかくやってみるという姿勢はインターンシップにおいても重視しています。ある意味、荒っぽいところがあるかもしれませんが、挑戦することで、見えてくることがあると思います。お客様のご理解・ご協力のおかげで学生の皆さんに様々な経験を提供できています。
― 受け入れる職場のみなさんも大変だと思いますが、メリットはありますか?
例えば、人にものを教えること=アウトプットをすることが、最も有効なインプットだったりしますので、社員が学生のみなさんに対して指導をする経験が、社員のレベル向上につながる部分があるのは事実です。また、レベルの高い学生の皆さんのパフォーマンスに触発される場面もあり、そういう意味では社員たちもいい刺激を受けています。学生から「なぜそんなに物事を決めるのに時間がかかるのでしょうか?」と質問されるなど、社員が逆に突き上げられるケースも(笑)。
最近では社員側も学生の皆さんから評価されている、という意識が出てきています。ですから、お互いある一定の緊張感を持って接していますし、よりよい関係が築けていると思います。
― 今後、アワードに期待することはありますか?
今回、私たちが得たような有益な情報をいかに発信し続けることができるかが今後も重要なポイントになるのではないかと思います。現在、まだ埋もれてしまっている素晴らしいインターンシップが世の中にきっとたくさんあるでしょう。このアワードをトリガーとして、ベストプラクティスを発掘し、世の中に共有していただけることを期待しています。
授賞式でプレゼンターを務めた法政大学の梅崎教授がおっしゃっていましたが、このアワードを通じて、よりよいインターンシップを作り出していくためのPDCAを回していくことも重要ではないかと思います。今回、大賞を受賞したことで一定の評価はいただきましたが、より定量的かつバランス感のある評価指標を導き出せないものかと考えています。アワードの場を活用し、情報を収集しながら、その評価指標を明確にしていく。その評価指標をもとに、課題を抽出し、企業や大学、学生のみなさんと改善に向けた議論を重ねていく場になってほしい。このインターンシップアワードにはそういう意味でも大きな期待を寄せています。
アワードを通じて、梅崎先生と出会えたことも富士通にとっては大きな出来事でした。現在、学生の皆さんにインターンシップの前後に一定の評価指標に基づいたアンケートに答えてもらってどのような差異が生じるのかを見極め、分析するプロジェクトを梅崎先生と共同で進めています。富士通のプログラムが被験者となり、実証実験を行うことにより、よりよいインターンシッププログラムの開発に向けた新たな知見が得られることを楽しみにしています。
*2018年10月インタビュー実施
「学生が選ぶ
キャリアデザインプログラムアワード」
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