インターンシップカンファレンス 最後のプログラムは、多摩大学 経営情報学部 准教授 初見康行さんによる「インターンシップアワードから紐解く学生の価値観」。初見さんは調査を通して、インターンシップと企業に対する志望度の関係を分析し、会場に向けて報告した。
学生はインターンシップに参加した企業に、本選考でも応募しているのだろうか。「2020年度卒マイナビ大学生広報活動開始前の活動調査」によれば、意外にもインターンシップに参加した企業すべての選考に応募した学生は2割前後に留まっている。インターンシップをすれば、確実に選考につなげられるとは言えないようだ。
初見さんはインターンシップへの参加と志望度の関係について、こう結論づけている。
「全体の85%の学生が参加企業に対して志望度が上がったと回答しています。性別、文理、学部・大学院で見ても、志望度の向上は等しく起きています。よってインターンシップは志望度に対しポジティブな影響を与えることが分かります。そのようなことは肌感覚で理解している、という方も多いかもしれません。では、インターンシップのどのような要素が志望度に影響を及ぼしているのでしょうか」
インターンシップをこれから始めようとする企業が初めにぶつかる問題は、「インターンシップをいつ、どれくらいの期間実施すべきか」だろう。夏か冬か通年か、1dayか1週間か1カ月か。初見さんはまず、インターンシップの時期と期間について分析を行った。
「結論から言うと、今回の調査では、時期や期間による明確な差は確認できませんでした。つまり、この時期・この期間インターンシップをやれば確実に志望度が上昇する、というものは見つからなかったということです。」
では、志望度の向上に大きく影響するものとは一体なんだろうか。初見さんは、このほど法政大学教授の梅崎修さんと、同じく法政大学教授の坂爪洋美さんとの3名でインターンシップの効果に関する調査を行った。「学生はインターンシップからどのような効果を得ているのか」が分析テーマだ。調査対象1179名に対し「インターンシップに参加して自分の中に生まれた変化について自由記述で書いてください」と投げかけた。
回答結果をテキスト分析にかけたところ、頻出1位が「自分」で268回、2位の「思う」が235回出現したという。次に、頻出語の共起ネットワーク分析、つまりどの言葉とどの言葉が同時に出現しやすい(繋がりやすい)のかについて、分析を行っている。
「例えば『自分』という言葉には『感じる』『知る』『思う』『考える』『知る』などといった言葉がセットで出てきます。さらに周辺部には『必要性』や『今』という言葉がつながっており、インターンシップを通じて自分の現状を知る、必要性を感じるなど、自分について考える機会があったのだろうと想像できます。
次のグループは『将来』『明確』『なった』。そのままですが、インターンシップに参加して将来やりたいことが明確になったことがうかがえます。もしくは『イメージ』『変わる』というものも多く、インターンシップによって業界のイメージが変わったとか、企業のイメージが現実に近付いたといったことが推測されます」
テキスト分析によって、初見さんらはインターンシップの効果として次のような仮説を導き出した。キャリアの明確化、視野の拡大、自己理解、意欲行動の向上という4要素だ。仮説の裏付けを取るため、各要素を10項目ずつ、計40項目のアンケートを作成。また別の4,000名のインターンシップに参加したことがある大学生に調査を行い、探索的因子分析という手法でインターンシップの効果を抽出した。
「結論として、現時点ではインターンシップには“5つの効果”があるのではないかと考えています。それは『キャリアの焦点化』『キャリアの展望化』『人的ネットワークの認知』『就労意欲』『自己理解』です。それぞれをもう少し詳細に表したものがこちらです」
「これら5つの効果と志望度は、有意な正の相関関係にありました。つまり、5つの効果が上がれば上がるほど、参加企業への志望度も上がるということです。中でも最も関係してるのは、キャリアの焦点化です。学生がインターンシップを終えたときに『この仕事は自分に合っている』、『この業界・企業で働いてみたい』のようにキャリアの方向性が定まる(焦点化)するほど、参加企業に対する志望度が上がるという関係になっています。また重回帰分析という手法でも分析をした結果、インターンシップの5つの効果の内、①から④の4つが志望度に有意な影響を与えていました」
では、キャリアの焦点化・展望化、人的ネットワークの認知、就労意欲を向上させるようなプログラムとはどのようなものか。初見さんは、それらに影響を与えるには4つのコンテンツが有効だと示した。
一つ目は「個人のフィードバック」。フィードバックはチームに対してなされるものと、個人に対してなされるものがあるが、個人のフィードバックを手厚くした方が志望度が上がりやすいことが分かった。二つ目は「社員との交流」。社員との交流をさらに「人数」「時間」「多様性」をいう切り口から見たとき、唯一統計的に有意と出たのは「多様性」だった。社員との交流をセッティングしたとき、より効果を発揮させるには、若手社員、中堅社員、管理職・マネージャー層、もしくは役員・社長といった多様な層との接点を持たせることが良い影響をもたらす。三つ目は「座学以上の工夫」、四つ目は「企業の特長を活かしたプログラム」。これらを感じ取った場合に、インターンシップの効果が向上し、最終的に志望度が上がる可能性が高いという。
「本日紹介した調査では、インターンシップは志望度向上に寄与すること、志望度アップのためには5つの効果を向上させること、そのためのコンテンツとしては、個人に対するフィードバックや多様な社員との交流、座学以上の工夫、企業の特長を活かすとよいことをお話してきました。ただし、今回調査したのはあくまでインターンシップと企業志望度の関係です。インターンシップにより志望度が向上したとしても、学生がその後の選考に参加するか、内定に至るかは別問題です。本件については、別途調査する必要があります。」
最後に初見さんは、今後のインターンシップの課題について触れている。
「文部科学省は、インターンシップの課題として「量的拡大」と「質的向上」を挙げているが、今後特に重要になるのは「質的向上」である。近年、インターンシップの参加率は8割近くに達しており、「量的拡大」については着実な成果が出ている。一方、個々のインターンシップの「質」については、これまで判断が困難であった。今後はインターンシップの質を判断するための基準・手段の確立が急務となるだろう。本調査で使用した「インターンシップの5つの効果」は、その一助となるかもしれない。
また、インターンシップアワードは本問題に対する一つの回答であり、「質の高い(世の中に広がるべき)インターンシップとは何か?」を問い続けている点に大きな社会的意義がある。今後も複数の調査からインターンシップの効果を明らかにし、企業・大学・学生の全ての関係者にとって有意義なインターンシップの形を模索し続けることが必要である。」
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