文部科学省“教育的効果”を高めるインターンシップの推進に向けて

文部科学省

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第3回インターンシップアワードでは、新たに大学等のインターンシッププログラムを対象とした文部科学大臣賞が創設されました。文部科学省は平成9年以降、学生の能力伸長に資するインターンシップの推進に取り組んでいます。インターンシップに対する国の取り組みについて、文部科学省高等教育局専門教育課企画官の服部正氏にお話を伺いました。

我が国の「インターンシップ」の歩み

― まずはインターンシップに対するこれまでの国の取り組みについて教えてください。

国の取り組みとしては、平成9年に「インターンシップの推進にあたっての基本的考え方」を当時の文部省、通商産業省、労働省の三省により取りまとめたことが最初になります。当時はインターンシップというものがまだ国内に定着しておらず、インターンシップをどのように捉えるべきか、という点で、大学側と産業側との共通理解もありませんでした。そういった状況のなかで、国としてインターンシップというものの位置付けを明確にしておくことが必要だろう、と一定の考え方を示したわけです。

― 「インターンシップの推進にあたっての基本的考え方」はこれまでに2度改訂されていますね。

コアとなる部分は当初から変わっていません。ここでは「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」とインターンシップを定義した上で、その意義について示しています。

大学側の意義としてはキャリア教育・専門教育の推進に有効である、教育内容・方法の改善・充実につながる、高い職業意識の育成が図られる、自主性・独創性のある人材の育成につながることが挙げられています。仕事を体験するといっても、アルバイトとは異なり、学習・教育といった要素が内包されているわけです。

一方、企業側の意義についても示されており、実践的な人材の育成につながる、大学等の教育への産業界のニーズの反映につながる、企業等に対する理解の促進、魅力発信につながる、といったことが挙げられています。すなわち、企業についての理解を深め、大学教育の場に産業界のニーズをフィードバックしてもらうことが企業にとってのインターンシップの意義になるということですね。

― その後も、平成21年には「インターンシップの導入と運用のための手引き」、平成25年に「インターンシップの普及及び質的充実のための推進方策について 意見のとりまとめ」、平成29年に「インターンシップの更なる充実に向けて 議論の取りまとめ」など、発信を続けていますね。

「インターンシップの推進にあたっての基本的考え方」で方向性を示したものの、実際にインターンシップが普及・実践されていくなかではさまざまな問題も出てきました。そこで、その時々の課題について一定の見解を示すべく、発信を続けてきました。

例えば、インターンシップが企業説明会的な内容に終始し、就業体験を伴わないプログラムである場合には、インターンシップと称さず、企業見学会等の実態にあった適切な名称を使用するよう促しています。また、より教育内容を重視し、インターンシップを教育的効果の高い取組みとするためには、大学等における教育活動の一環として明確に捉えることが効果的です。そのため、正規の教育課程におけるインターンシップに必要な要素として、例えば就業体験を伴うこと、企業と学生との目的の擦り合わせなどの事前教育の実施すること、原則として5日以上の実習期間を確保することといった要素を整理し、単位認定を行うインターンシップの推進を図っています。

インターンシップというのは、仕事と教育の中間的な存在であり、さらに就職という観点も加わってきます。そういった複数の観点が共存するなかで、各プレーヤーが共通理解を持っていないと、本質的なところからどんどん外れていってしまう。ですから、その時々の状況に応じて課題を整理し、一定の見解を示していくことが大切なのだと思います。

グッドプラクティスの追求
~国の表彰制度とインターンシップアワード文部科学大臣賞の創設~

― 平成30年からはインターンシップ届出制度が始まりました。

平成29年の「インターンシップの更なる充実に向けて 議論の取りまとめ」では、インターンシップの量的拡大・質的充実の推進において、国、大学、企業といった各プレーヤーの役割を整理しました。「それぞれが何をやるのか」ということですね。このなかで、国の役割として優れたインターンシッププログラムの普及ということが挙げられ、そのための方策として届出・表彰制度を実施することになったわけです。

届出制度とは、正規の教育課程としてのインターンシップに必要な要素を満たしたプログラムについて、大学等から任意で届出を受け付け、その内容を公表するという制度です。さらに、届出を受けたプログラムのなかから、とくに教育的効果が高く特色のあるプログラムを表彰制度においてグッドプラクティスとして表彰し、他の大学等や企業等への普及につなげようとしています。

― この「学生が選ぶインターンシップアワード」も、同時期にスタートしました。実施にあたっては、文部科学省にもご後援いただいています。本アワードのどういった点に賛同いただけたのでしょうか。

日本のインターンシップのかたちというのは、「インターンシップの推進にあたっての基本的考え方」が出て20年以上経った現在でも模索が続いています。そういったなかで、グッドプラクティスを世の中に広め、インターンシップの価値を明確に示していくことが重要だろうと考えています。

文部科学省でやっている表彰制度もそうですし、このようなアワードを実施していくことが、「良いインターンシップ」というものへの共通理解を作っていく上で有効だろう、と。そういった考えから後援させていただくことにしました。

―令和2年に実施した第3回アワードでは、大学のプログラムを対象とした文部科学大臣賞の創設にもご協力いただきました。

学生からの評価を基本としたアワードのなかで、「より教育効果の高い大学のプログラムを表彰したい」ということでお話をいただきました。大学における教育活動としてのインターンシップのかたちを、社会に対してしっかりと見える化していく、顕在化していく、というのは極めて重要です。そこに強く賛同して文部科学大臣賞を作らせていただきました。

賞の選定にも参加させていただきましたが、審査を通じて各大学・企業の取り組みを詳しく知ることができたのは、我々にとっても大きな収穫でした。文部科学省のほうで実施している表彰制度は、大学にフォーカスして見ていますが、インターンシップにおいては企業側のメリットも考える必要があります。このアワードで受賞した大学・企業の取り組みを見ていると、そこがしっかりWin-Winになっている。選考に参加することによって、インターンシップのあるべき姿が言語化されてきたように思います。

「ジョブ」としてとらえるインターンシップ
~鍵となるのは企業メリットの創出~

― インターンシップでは企業側の協力も欠かせませんね。

「企業にとってのメリットをどう作っていくか」というのは大きな課題だと思っています。インターンシップでは企業という場を借りてキャリア教育・専門教育を行っていくわけですが、そのために企業側は一定の時間や場所、マンパワーを割いています。CSRの一環として取り組んでいただくにしても限界があるので、「コストをかけてでもインターンシップを実施したい」と、企業側に思ってもらえるようなかたちを探していかなければならないと考えています。

― 学生を受け入れることの価値をどこに見出していくかが課題ですね。

一つの方向性としては、インターンシップを「ジョブ」として捉えることだろうと考えています。つまり、就業体験ではあっても企業にとって何かしらの付加価値のある仕事を学生に行ってもらうかたちにできないか、と。もちろん、そこには教育的要素が入っていなければなりませんし、仕事をしてもらう以上、「有給」というかたちにする必要もあるでしょう。

キャリア教育・専門教育としての効果と企業としての付加価値を両立する仕事が具体的にどのようなものになるのか、汎用的に適用できるモデルを探しているところです。このアワードのような場を通じてグッドブラクティスを顕在化し、うまくいっている理由を分析していくことが足がかりになると考えています。

高度人材採用につながる新たな取り組み

― インターンシップについて、文部科学省では今後どのような取り組みを行っていくのでしょうか。

表彰制度などは引き続き行っていきますが、我々が本腰を入れて取り組もうとしているのは、「ジョブ型研究インターンシップ」です。日本では企業で活躍する博士人材の割合が他国に比べて低い。著名な欧米企業の経営者層は、ほとんどが博士号取得者です。日本では学歴、すなわち大学における学修成果が社会に評価されていないのです。この問題を解決するには、産と学の距離を近づけて、社会として大学院教育をより深いものにしていく必要があります。そこに「インターンシップを活用できないだろうか」という考えから生まれたのが、この「ジョブ型研究インターンシップ」です。

また、高度人材に関しては今後ジョブ型採用が進んでいくと考えられますので、そこに対応した博士人材を育成する必要もあります。ですから、「ジョブ型研究インターンシップ」は予めジョブディスクリプションを明示した上で、専門分野にマッチした就業体験をするかたちで考えています。

― ジョブ型採用に対応したインターンシップということですか。

「ジョブ型研究インターンシップ」を推進していく上での条件として考えているのは、長期かつ有給、そして必ず正規課程で実施するということです。また、これを機に企業がどのような人材を求めているのかジョブディスクリプションを通じて、大学や学生に明確に伝えることは非常に重要です。博士人材の民間企業における採用を推進するという背景はありますが、こうした条件を課すことで大学院教育自体がアップデートされ、インターンシップ本来の意義にも合致するものとなります。その上で、結果として採用につながるのは自然なことであると考えています。

博士人材は全国に約7万人いますが、そのうちインターンシップに参加している学生はわずか300名程度です。このような状況で社会に必要とされる博士人材が十分に育成できるはずがありません。「ジョブ型研究インターンシップ」は推進委員会を設置し議論を始めたところですが、今後は趣旨に賛同してくれる企業や大学でコンソーシアムを作り、運営していく方向で話を進めています。

インターンシップアワードに期待することとは?

―近年は地方創生といった観点からもインターンシップが注目されていますね。

学生たちは大学周辺の地域コミュニティのなかで普段の生活を送っています。ですから、そのコミュニティの人たちが「この学生たちに地域コミュニティの将来を支えてもらいたい」と願うのは、自然な流れとして理解できますし、それはあって然るべきだと思います。地域を支える存在として学生を育成したいと考えたときに、インターンシップは非常に有効なツールです。

地域経済はその地域に存在する企業によって成り立っていますし、企業はその地域に必要とされる人材がほしいと考えているので、企業が大学教育に寄り添って教育を行うというのは地域の発展につながります。ただし、それには地域住民、企業、地方自治体といった多くの関係者の合意形成が重要となるので、インターンシップを通じてそれがなされるようになれば嬉しいですね。

― 最後に、本アワードには今後どのようなことを期待しますか。

このアワードはグッドプラクティスを顕在化していくというところに大きな意義があると思っています。ですから、学生、大学、企業のいずれにとっても心地よいインターンシップというものをどんどん見える化していってほしいですね。また、「なぜ、そのプログラムが成功しているのか」について審査などを通じて分析し、モデルとなるような類型を示していただけるとありがたい。我々もそういった議論を一緒にしていきたいと思っています。

「学生が選ぶ
キャリアデザインプログラムアワード」
運営事務局

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