2年目を迎えた『学生が選ぶインターンシップアワード』。全223社、287プログラムの中から大賞に選ばれたのは、三菱電機株式会社の「技術系実習型インターンシップ」でした。同社人事部採用グループマネージャーを務める片山敬介氏にアワードを振り返っていただき、その影響や効果について伺いました。
― まずはインターンシップアワードに参加しようと思った理由を教えていただけますか?
まず、今回大賞をいただいた技術系の実習型インターンシップについて少し説明させていただきますと、これは20年前から地道に続けてきたプログラムです。それ以前にも大学と個別に調整して実施してはいたのですが、広く一般に公募するかたちは2000年から始めました。
当時はそういったインターンシップは世の中を見渡してみても少なく、私たち自身も「どういったプログラムが良いのか?」ということを試行錯誤しながら、ブラッシュアップしてきました。大学に先生のご意見を伺いに行ったり、実際にプログラムに参加した学生の声を聞いたり、あるいは受け入れ部署からの提案を取り入れながら、私たちなりに改善してきたんです。
― そんなに昔から取り組んでこられたのですね。
はい。そうやって改善してきた中で、ふと「当社のインターンシップは果たして世の中全体ではどれくらいの位置付けになるのだろうか?」と気になるようになりました。そして、インターンシップアワードに参加することで、何らかの学びが得られるのではないかと思ったわけです。
アワードの趣旨にはもちろん賛同できますし、『学生が選ぶ』という視点も良い。しかも、有識者による審査もあります。ただ単に『学生が選ぶ』というだけなら、「表面的なイメージでランキングされてしまうのでは?」という懸念を感じたかもしれませんが、このアワードは学生の意見を中心に置きつつも、有識者による意見も踏まえて総合的な評価を行っています。そういった有識者による客観的な評価・フィードバックを受けられる点に魅力を感じ、応募することにしました。
― 全223社、287プログラムの中での大賞受賞でした。参加を決めた時点で受賞する自信はあったのでしょうか?
正直まったくありませんでした。どれくらいのレベルのものが入賞するのか、見当もつかなかったです。まずは応募をして学生の評価や有識者の声を聞くというのが第一の目的でしたから、正直なところ「受賞できなくともまあ良いか」という感じでした。まずは参加して、他社のプログラムをいろいろ見せていただいて、有識者の声が聞けたら良いな、と――まさか大賞を取るとは思ってもいませんでしたので、決まったときは驚きのほうが大きかったですね。率直に嬉しく、大変光栄に思っています。
― 今回のプログラムは、受け入れ部署での10日間の実習とフィードバックの場としての集合研修を組み合わせたものでした。20年前から同じスタイルで実施しているのですか?
実習の1カ月半後にフィードバックの場を設けたのは昨年からです。それまでは10日間の中でフィードバックや振り返りもやっていたのですが、「あれもこれも」という感じで学生も結構たいへんなんですね。せっかくなら、10日間は実習に集中し、そこで学んだことをじっくり反芻してもらってから、フィードバックをしたほうがより効果的だろう、と考えました。
そこで昨年は、実習終了後からフィードバックまでに期間を置くことで、学んだ経験や知識の棚卸しをしてもらうことにしたのです。学生はフィードバックを受ける前に一度学校に戻るので、そこで友人たちから他社のインターンシップ経験を聞き、自らの経験についての客観的な比較分析もできます。
― 三菱電機のプログラムは学生からの評価が非常に高かったのですが、そのあたりをどう分析しますか?
とにかく丁寧な受け入れを心がけてきたということだと思います。ただ、法政大学の梅崎先生にご指摘いただいた「コミュニケーションが多方向的である」という点は、私たちにとっても気づきになりました。学生には、層別、職種別の多様な社員とコミュニケーションを取ってもらっているのですが、私たちは感覚的に「うちの仕事を体験するにはそういったコミュニケーションが必要だろう」と判断していました。今回、梅崎先生からそこを評価していただいたことで、「自分たちは間違っていなかったんだ」と自信を持つことができましたね。
― 実習で体験できるテーマの数が豊富だったことが、評価のポイントでもありました。
プログラムをスタートした2000年当初は僅かな数のテーマしかなく、学生の参加人数も10名程度でした。当時は用意したテーマと学生の専攻が一致していないこともあったようです。それが昨年には250弱までテーマ数が増えてきたので、学生はより自分の専攻に近いテーマを選択できるようになったと言えるでしょう。
年間の受け入れ人数は事務系も含めると約700名に上りますが、一人ひとりと面談をさせていただき、本人がやりたいこと、得意なことなどについて話し合いながら参加していただくテーマを決めています。ときには「あなたならこのテーマの方が合っているかもしれませんよ」と、こちら側から提案することもあります。そういったところからも、より学生に寄り添った内容にできたのではないかと思います。
― 受け入れ部署では学生にトレーナーがついてテーマの進捗を管理していくそうですが、ほとんど新人教育のようですね。これだけ手厚いサポートを行うのはたいへんだと思うのですが。
私も昔は学生を受け入れる側にいたことがあるのですが、確かに非常にたいへんではあります(笑)。ただ、部署にもよりますが新入社員がトレーナーを務め、それまでに学んだことをアウトプットする機会にしています。ですから、新人にとっては学生に教えることで、自分自身の知識を棚卸しできるきっかけにもなっているんです。学生へのフィードバックは、トレーナーだけでなく、リーダーや管理職など、各階層の社員が行っているので、職場全体で受け入れる感じですね。
― 相当な数の方がインターンシップに関わっているわけですね。
3000人くらいの社員が関わっているので、職場にはそれなりの負荷がかかります。それでも受け入れてくれているのは、やはり現場が「やって良かった」と感じてくれているのだと思います。学生の発想は本当に豊かで、ときには「こういうアイデアもあるんじゃないか」と新鮮な意見を出してくれます。実際にそのアイデアをベースに当社の研究開発を行った事例もあるくらいです。
そういうことがあると「インターンシップは有益だな」と、受け入れる側にも思ってもらえるのではないでしょうか。また、インターンシップに参加した学生がそのまま選考に参加してくれるということもあります。事実、インターンシップ参加者のうち約4割は実際に入社していますから。そして、インターンシップ受け入れ先と同じ部署に配属されたりもするので、そういう実質的なメリットも感じているのかな、と思います。
― 大賞受賞後はどのような反響がありましたか?
関係部署からは、まずは「おめでとう」と声をかけられました。さらに続けて「うちのインターンシップってどこが良かったの?」と聞かれるんですね。こうした質問は以前からあったのですが、これまでは具体的にどこが優れているのか明確に答えられなかったんです。それが今回、有識者の先生に客観的に講評していただいたおかげで、納得してもらえる説明ができるようになりました。
また、これまでインターンシップに前向きではなかった部署も「そんなに良いものだったら、うちもやってみようか」と、新たに受け入れてくれることになりました。その結果、昨年の250テーマから、今夏は270テーマにまで増やすことができました。もちろん、従来から受け入れてくれている部署も、受賞によってよりインターンシップに前向きになってくれています。
― 社外にもインターンシップの認知度が高まったのではないですか?
社外からは「御社のインターンシップの内容を教えてほしい」といった問い合わせもいただきました。大学の先生方にもインターンシップの意義をお伝えする良い機会になったのではないかと思います。あとは大賞を取ったプログラムということで、学生からの期待値も上がるだろうと考えており、受け入れ部署のほうでプログラムを見直す契機にもなっていますね。
実際、今夏のインターンシップは昨年以上にたくさんのご応募をいただきました。中には「アワードで大賞を取ったプログラムだったので応募しました」という学生もいて、受賞したことが応募の際の安心材料にもなっているようです。
― 大賞受賞を経て、今後のインターンシップへの抱負を教えてください。
多摩大学の初見先生のお話で、インターンシップの5つの効果というものがありました。インターンシップへの参加は、学生に「キャリアの焦点化」「キャリアの展望化」「人的ネットワークの認知」「就労意欲」「自己理解」をもたらす効果がある、というお話です。
当社ではこのモデルを参考に、5つの効果に対してプログラムが「どの程度寄与しているか、どの程度学生の態度変容に影響しているか」を検証する取り組みを始めました。これまでは参加学生からの定性的なコメントを元にプログラム内容を検討してきたのですが、このモデルを応用することで定量的な効果測定ができるのではないか、と考えています。
具体的には、実習が始まる前と終わった後、さらに1カ月半後の集合研修のときの計3回、いくつかの指標を設定してスコアリングしてもらいます。すでに実習前と実習後の2回の点数を集計してみましたが、顕著な変化が見受けられてたいへん興味深いです。こうした定量的なデータも参考にしながら、今後より一層有益なプログラムへとブラッシュアップしていきたいと思います。
― 早速、新しい取り組みにつなげられているのですね。
また、初見先生のお話ではインターンシップの課題として「質的向上」と「量的拡大」をキーワードに挙げていました。「質的向上」というところは従来の各方面からの意見・提案を取り入れることに加え、定量的な効果測定によってブラッシュアップしていき、「量的拡大」に関しては今後も受け入れ人数を増やしていく方針です。ただし、あくまで個々の学生へ向き合う本気度は失うことなく、一人ひとりに寄り添った受け入れをしていきたいと思います。加えて、学生からの要望として、「通年で受け入れてほしい」「長期間受け入れてほしい」という意見もあるので、そういった声に応えるためのプログラムも検討していきたいと思います。
― 最後に、インターンシップアワードには今後どんなことを期待しますか?
とても有益なアワードですので、より多くの企業を巻き込んだ取り組みになっていけば良いなと思います。それから、企業のみならず、産官学連携でインタラクティブにインターンシップの形を模索するきっかけになってほしいですね。
自社のインターンシップを、学生、大学、有識者、公的機関に客観的に評価してもらうことは、プログラムを再検証するうえで非常に有効です。各企業がインターンシップを見直す機会として、このインターンシップアワードにはより存在感を強めていってほしいと思います。
2019年9月インタビュー実施
「学生が選ぶ
キャリアデザインプログラムアワード」
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